若手家族心理学研究/家族療法家に聞きました

 

yosidakatsuhiko

(特)メンタルコミュニケーションリサーチ 
吉田克彦先生
(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
 
 

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どのような分野・現場で臨床に携わっているか 

 

 一番長くやっているのが、MCR不登校・引きこもり研究所にて、不登校・引きこもりをはじめとした家族問題全般のコンサルテーションと訪問援助のコーディネートをしています。他に、小学校2校と中学校2校でスクールカウンセリングをしています。

 

研究テーマはなんでしょうか?

 

 不登校・引きこもりの本人とその家族への短期家族療法的アプローチと、訪問援助を行うボランティアについての実践研究が中心です。最近では、家庭内暴力・摂食障害・小児心身症事例へのブリーフセラピーの実践研究にも力を入れています。基礎研究は、今後の課題ですね。
 いずれにせよ、一番興味があるのが「相手を動かす(変化させる)ために自分がどのように動く(変化する)のがよいか」ということです。これが把握できれば「あの人を動かすためには、この人がどのように動くのがよくて、そのために自分は今どう動くべきか」と、どんどんシステマティックな展開が期待できます。もちろん、これらの動きを考えるには、生活環境・文化・これまでの体験・人間関係などさまざまな要素からの拘束も踏まえる必要があります。それらも研究対象だと思っています。

 

家族療法は臨床にどう役立つか、どう役立てているか

 

 一番心強いのは、多様なアプローチができることですね。一つのアプローチでは、どうしても限界がありますが、その時に「じゃあ、こうしよう!」と新たな介入が考えられる。この多様性の良さは、誰を相手にするかにも言えます。IP本人でも良いし、両親でも良いし一方の親でも良い、もちろん子どもや先生からでも援助が出来る。手詰まり感をあまりもちません。

 

家族療法家を志したきっかけを教えてください。

 

 子どもの頃から飽きっぽい性格だったので、単純に繰り返す仕事は苦手でした。お祭りが好きで、高校時代は照明がやりたくて演劇部に入っていたし、男子プロゴルフトーナメントの運営とかイベント関係のボランティアとかバイトばかりやっていました。祭りや舞台やイベントって、一回ポッキリでしょ?それが、楽しかった。
 それで、将来を考えたときに、そんな飽きっぽい性格にどんな仕事が向いてるかなと考えた。(そのころ僕がイメージしていた)普通のサラリーマンではすぐに飽きるだろうなと。大工さんとかクリエイターなら飽きないだろうけれど、致命的に手先が不器用でした(笑)。
 それで、探していて社会福祉士になって児童相談所のケースワーカーになることを夢見ていました。ケースワーカーはそれぞれの家族によって問題が複雑で飽きないだろうなと。それで、ボランティアとかにも興味があったし私は福祉系の学部に入りました。
 その頃は心理学部から児相を目指そうとは思いませんでしたね。理由は福祉系には社会福祉士という国家資格があったことと、個人の内面だけ見てもどうしようもないような気がしていたから。その頃の浅薄な思考では、心理面接をやって不登校や虐待が改善するとは思えなかった。家族の経済的な問題とか夫婦関係について触れずに、子どもと面接しても意味がないんじゃないかなと。そんなことを考えていました。私の通っていた中学校は一学年10クラス程のマンモス校で、いろんな子どもがいていろんなトラブルがあったけれど、それらを振り返ってみても、本人への心理面接で全てに有効だとは思えなかった。
 これは、大学で授業や研究会で箱庭とかプレイセラピーを紹介されても、解消できなかったし、むしろ疑問の方が増えました。一方で、福祉系の「人間愛」「家族愛」という言葉にも首筋がかゆくなっちゃうし(笑)。
 単純に僕がクライアントだったら「本人の気づき」とか「周囲の愛情」なんていう言葉より、「じゃあ、今晩どうやって飯食べればいいか」を知りたいなと。
 そんな時に、授業で家族療法に出会って「これは面白そうだな」と思いました。そして、若島孔文先生に出会って臨床の話を詳しく聞いていくと「おおっ、こりゃすげえ!!」と、いわば「今晩の飯の食い方」を一緒に考えるアプローチだと思ったんです。

 

お勧めの本(臨床心理の本に限らず、臨床に役立つもの)

 

 最初に家族療法を知ったきっかけである「家族療法」平泉悦郎著(朝日文庫)はいいですね。淀屋橋心理療法センターの事例がわかりやすく書かれています。文庫版だから、気軽だし、構造派アプローチ中心で10年ぐらい前の本なので、ちょっと古くささを感じますが、初心者の入門用には最適だと思います。
 あと心理以外では、「こちら救命センター―病棟こぼれ話」浜辺祐一著(集英社文庫)は、暇さえあれば繰り返し読んでいますね。東京にある救命救急センターの院長が書かれたエッセイ集です。救命救急センターとは瞬時に様々な可能性や危険性を予測し、その中で最善の判断しなければならない場所です。その中でプロとしての倫理観や、机上の理論と臨床現場のギャップや矛盾に常に対峙している姿は、家族療法家にも参考になると思います。そして、ユーモアの大切さも僕はこの本から学びました。

 

お勧めの論文を紹介してください。

 

 自分の臨床に関して言えば、「小学校における心因性発熱へのブリーフコンサルテーション」(吉田ら2005)臨床心理学,第5巻第4号,pp.513-522ですかね。あまりに順調に書けたので、それ以後、うまく事例論文が書けなくなりました(笑)。

 

師・影響を受けた人は誰か

 

 まず、矢沢圭介先生(立正大学)には、研究に取り組む姿勢を教えてもらいました。次に、家族療法を最初に紹介して頂いた、村尾泰弘先生(立正大学)ですね。このお二人がいなければ、今の僕はいないでしょう。
 そして一番影響を受けたのが、若島孔文先生(立正大学)ですね。若島先生に出会って、家族療法の奥深さ・面白さ・難しさを教えてもらいました。若島孔文先生とは、一流の板前とその見習いのような関係でした。基本は「習うより慣れろ」で、手取り足取り教わるというよりは、「見て技を会得しただろ。次から、一人でやれ」という感じでした。そんなこんなで、2年以上ほぼ毎日行動を共にしていました。そこでは授業や講演の話よりも、日常での会話が僕にとってはとても勉強になりました。特に仕事場への往復の車中で、研究について話したり、ケースのスーパービジョンをしてもらったり、その日あった出来事をシステミックに捉えなおしてみたり、もっとも話の大半は犬の話題でしたが・・・。さっきの板前の例で言えば、本や授業という作品がお客さんに出す最高のお刺身だとして、そのお刺身をつまみ食いしつつ、刺身に使わなかったマグロのアラとかカマを使った美味しいとこどりの厨房の賄い料理を食べているような感じでした。 あと、斎藤暢一朗先生(首都大学東京大学院)とは学部のころから一緒に研究したり、議論したりで、強い刺激を受けています。

 

臨床家のたまごに先輩として一言

 

 自分もまだ臨床家のたまごだと思っていますので、自分が心がけていることしか書けませんが・・・。 家族療法や家族療法を背景に持つブリーフセラピーでは、技法が一人歩きしている気がします。私も、臨床はじめた頃は、「まず、開始の質問をして、問題を明確にして、次にスケーリングして・・・」などと、面接をマニュアル化していました。
 しかし、家族療法はシステム論・語用論・コミュニケーション論・社会構成主義などいろいろな理論の元に出来上がっていて、技法はそれらの理論を臨床で活かすための単なるツールというかメタファーでしかないことを忘れてはいけないでしょう。逆を言えば、理論背景をしっかり押さえていれば技法に縛られることもなく、柔軟な臨床が出来ると思います。車でたとえれば、技法はアクセルペダルとかギアみたいなもので、ペダルを踏めば車は走るといった理解では、車の調子が悪いときにお手上げになる。ボンネットの中まで把握できて始めてプロといえるのではないでしょうか。
 あと、臨床家はやはり現場の視点を失ってはいけないと思います。クライアントから学ぶことが多くあります。また、スーパーバイザーをはじめ仲間との何気ない会話からも得るものは多くあります。吉川悟先生の「セラピーをスリムにする!ブリーフセラピー入門」(金剛出版)を読んで、プライベート・コミュニケーションからの引用がいくつもあって、なんだかうれしい気持ちになった事があります。家族療法はシステミックな視点を重視していますから、研究においても自分含むシステム全体をフルに活かさないともったいない。いろんな人と話して、いろんな意見を聞いて、視野を広げることが重要だと思います。

 

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