【若手家族心理学研究/家族療法家に聞きました】

 

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筑波大学人間総合研究科准教授程
田附あえか先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)


 

 

どのような分野・現場で臨床に携わっていますか?

 児童養護施設の心理療法担当職員、大学の学生相談室のカウンセラー、中学校のスクールカウンセラーとして働いています。他にも児童虐待をあつかう研究所で研究員をしています。 

研究テーマはなんでしょうか?

 研究テーマは「児童養護施設における家族支援」です。おおざっぱに言うと、子どもにとっては親のイメージを確かなものにすること、親は親としての自分のイメージを作っていくことが、私が施設の家族と関わるときに心にとめていることです。その先に、施設にいる子どもが家に帰れるか、それとも残念ながら一緒に住み暮らすことは出来ないけれども家族としての交流を続けるか、という選択をするのを見守るのが児童養護施設における家族支援なのだろうと感じています。いわゆる面接室における親・子どもへの心理療法も行いますが、日常生活の一場面でのことばのやりとりがもっと大事なこともあります。もちろん、場合に応じて家族合同面接や家族合同遊戯療法、心理教育的な要素を織り交ぜた面接を行うこともあります。 

家族療法は臨床にどう役立つか、どう役立てていますか?

 まだまだわからないことだらけの実践で、何かをここにしたためるようなものでもないのですが、施設での家族援助は家族臨床の考え方なしにはやっていけないことは実感しているので、その点から書いてみようかと思います。 

 この分野は現在、家族臨床のものの見方がもっとも必要とされる分野のひとつだと感じています。技法としての家族合同面接などは行いますが、それよりも、「ものの見方」としての家族臨床なしにはどうにもやっていけない分野だろうと思います。相手の心理的な側面はもっとも大切にしながらも、その人自身の生物的な制約は見逃せませんし、経済・社会的な視点なしに施設の家族の行く先を見立てるわけにもいきません。その意味で、家族の支援を懸命に考えれば当然のごとく、平木典子先生がおっしゃる統合的な視点が必然的に浮かび上がってくると思います。 そして、このような包括的なものの見方をしながら援助をするのに、心理士一人が何かをできるわけもありませんので、私たちは家族合同面接を行うときにさまざまな立場の人に入ってもらうことにしています。施設の生活職員に一緒に入ってもらうことも多くあります。この発想は、家族臨床という大人数が開かれた関係性に集まる考え方に馴染んでいたからこそ、違和感なく出てきたのだろうと思います。 

 さらに、現在、施設入所児の多くは虐待を受けています。よく言われますように、虐待をしたとされる親にお会いしてお話を伺うと、ほとんどの場合自身も虐待を受けており、自分の親との関係が自分の子どもとの関係に色濃く影響を与えていることがわかります。この意味では、家族療法の多世代的な視点は、虐待が生じる家族力動を見る上で不可欠となります。少なくとも四世代分くらいのジェノグラムを作って、虐待が生じた必然性、虐待をしてしまった親の悲しさや重さを私たちがどれほど感じ取れるかどうかが、支援をするときの鍵になるような気がしています。  

臨床家を志したきっかけは何ですか?

 もともとは英文学者になろうと思って、大学院でシェイクスピア時代の英国演劇を専門にしていました。ところが研究を進めるうちに自分のセンスのなさにがっかりしてしまったことと、修士論文を書いたのがあまり楽しくなかったことで転向をしました。転向先が心理学だったのは、文学の研究をする中で学んでいた精神分析理論を、テキスト上の人物ではなく、実際の人間にあてはめて考え、実践する方が性にあっていると感じたことが理由のひとつです。 

家族療法家を志したきっかけは何ですか?

 大学院で中釜洋子先生がご著書(『いま家族援助が求められるとき―家族への支援・家族との問題解決』、垣内出版)をご紹介くださいました。実は、当時は特に家族に興味があったわけでもなかったのですが、「安く買えるよ」という一言で買う気になり(笑)、手に取ったのが家族臨床との最初の出会いです。そこに書かれていた家族臨床のものの見方、特に「誰も悪くない」というタイプのまなざしに共鳴したのが家族臨床の学びを始めたきっかけです。 

お勧めの本(臨床心理の本に限らず、臨床に役立つもの)を教えてください。

小説はたくさん読みます。最近読んだものでは、『手紙』(東野圭吾)。犯罪加害者の家族の話ですが、罪を償うとはどういうことか、虐待者の支援をしているところとも結びつけて考えさせられました。家族臨床の本ではオリーリの『カップルと家族のカウンセリング―パーソン・センタード・アプローチ』(金剛出版,2002)が好きです。 

お勧めの論文を教えてください。

 最近読んだものでは、「嫌なことを忘れて生きる少年と感情を押し殺して頑張り続ける母の事例」(家裁調査官研究紀要第4号,2006,48-79)。中釜先生がスーパーバイズされた家庭裁判所の研修の逐語記録です。加害者という側面を持つ人と面接をする場合、クライアントが語りにくいことであっても、こちらが必要なことは問い、それを語ってもらう中でしか生まれない信頼関係があるということを教えてもらいましたし、それでも加害者にあたたかなまなざしをむけ続ける強さを感じました。 

師・影響を受けた人は誰か

 先ほど書いた中釜先生には、いろいろ具体的なことを教えてもらっているだけではなく、日頃のたたずまいから伝わってくる言葉にはならないものを学んでいるように感じます。平木典子先生には「誰も悪くない」という家族臨床のものの考え方を体現されているようで大きな影響を受けています。児童虐待の分野では四方耀子先生に、もっとも厳しい状況にいる人たちと会うときに、ゆったりと自然にいることや日常生活のちょっとした出来事の大切さを教わっています。家族臨床から離れると、スーパーバイザーの首都大学東京の永井撤先生からは臨床で使うイメージの力や感性を研いで頂いているような気がします。同・下川昭夫先生には私のぼんやりとした研究を研究として成り立たせるためのご指導を頂いています。 

臨床家のたまごに先輩として一言

 私の臨床はよい仲間がいることで支えられている部分が大きいです。大学院や研究会の仲間を大事にするのがいいなあと思います。 

 

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