【若手/実践家に聞きました】


 
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山梨大学教育人間科学部准教授
東海林麗香

 

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
 
 
 
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①研究テーマはなんでしょうか? 

 専門は発達心理学です。持続的関係にある者が生活を共にしていくということに関心があります。その中でも、互いの矛盾や差異を「どう意味づけていくのか」「意味づけ方がどのように変わっていくのか」という問題に特に関心があります。
 現在は新婚夫婦を対象とし,共に生きていく中でどのように関係を維持していくのか,関係性がどのように変化していくのか,ということを検討しています。具体的にはインタビュー,自由記述といった手法を用いて,夫婦間葛藤エピソードに関する語りや記述を縦断的に見ていきます。その中でも特に「同一の原因により反復的に生じる葛藤」についての意味づけがどのように変化していくか、ということに焦点を当てた研究を行っています。意味づけの変化ということに関しては,「折り合いをつける」「納得のいく落としどころを見つける」「気になってしょうがなかったことが気にならなくなる」といった,どちらかというと消極的な,ともすると現実的な問題解決に結びつかないような対処の仕方に関心があり,そのような対処が関係の維持や関係性の(正負双方を含む)変化とどのように関連するのかを見ていきたいと思っています。 


②その研究テーマを選んだ理由・きっかけを教えてください。 

 異文化交渉に関心を持つようになったのは,大学生3年生から4年生にかけて通っていたアルバイト先での出来事がきっかけです。そこではいくつもの仲良しグループができ,グループ間のいさかいがよくありました。その中で,「しょせん私立高校出身と公立高校出身は違うよ」などとさまざまなお互いの<文化>の違いを列挙し,そして最後には「だから(仲良くするのは)無理!」と話を締めるような会話がよくありました。私はそれを横目で見ながら,「他人と同じ分けないんだから歩み寄っていこうよ」というようなことを思っていました。しかしながら他方では「人と人とは違うから面白い」というような言い方にも「でも当たり前が違ったら大変だと思うけどなぁ」と違和感を抱いていたし,「<文化>が違う」といった言い方で人を遠ざけるようなこともありました。ちょうどこの頃に卒業論文のテーマ決めがあり,異文化交渉の問題を扱うこととし,帰国子女を対象に帰国後の対人葛藤の内容や対処についてインタビューを行いました。
 その後データを見直す中で,場面や相手によって譲れるラインを設定し,ある部分では折り合いをつけて対処しているという語りを見出し,このことをきっかけに,実際にどんな対処行動を取るかではなく,互いの差異や矛盾をどんなふうに意味づけていくということに関心を持つようになりました。修士論文以降は,異文化交渉の場の一つである「新婚夫婦における夫婦間葛藤」に対象を移し,関係の歴史や展望といった時間軸を含んだ意味づけが,関係の中でどう変わっていくのかについて検討を進めています。これについては発達心理学研究に論文が掲載されました。
 最近では,「気になってしょうがなかったことが気にならなくなること」に関心があります。これは,インタビュー場面では「語られなくなること」とも捉えられます。縦断的にインタビューを行う中で,複数回に渡って深刻に語られていた葛藤内容があるときを境に語られなくなったというエピソードから関心を持つようになりました。この「気にならなくなる」プロセスや,その機能や影響について縦断調査で検討ものについての論文は現在審査中です。 


③師・影響を受けた人は誰か?

 研究上,ご指導いただいた方や影響を受けた方はたくさんいるのですが,ここでは女性研究者として目標としている方として,北海道大学の仲真紀子先生をご紹介したいと思います。仲先生は北海道大学の前に東京都立大学に在籍しておられました。ご専門は認知心理学です。非常に精力的に活動されている方で,女性としてのライフコースとキャリアについて考えたときに,目標としたい方です。
 直接ご指導いただいたことはないのですが,研究への取り組み方や論文を書く上での心構えなど,学んだことがたくさんあります。例えば論文を書くことや国際学会に行くことなど,非常にハードルの高いことと考えていたときに,明るくライトに激励してくださり,実際的なノウハウを教えていただいたことで,研究への取り組み方が変わりました。
 また,楽しんで研究をやっていらっしゃる感じが伝わってきます。私は論文を書くときや調査で忙しいときなど,好きでやっていることにも関わらず,なんだか苦行のように感じてイライラしてしまうことがあるのですが,仲先生はそれを感じさせません。雰囲気もとてもやわらかく,お話しているとほんわかした気分になる方で,そういう部分も学びたいところです。 


④現在の研究テーマのほかにどのような分野に注目していますか?

 ここ半年くらい,バフチンに関心を持っています。心理学を始めて間もない頃に『マルクス主義と言語哲学』(未来社)を読んだのですが,そのときはあまり理解ができませんでした。背景知識がなかったことも関係していると思うのですが,ひどく抽象的なものに感じてしまって,自分の研究との関連で見るようなことはありませんでした。最近になっていくつかの文献を読み直してみたら,自分の関心ととても関連があるように思い,面白みが増してきました。やはり難しいことには変わりはないのですが,勉強するのがとても楽しいです。 


⑤お勧めの本もしくは論文を教えてください。

・『コミュニティ心理学―地域臨床の理論と実践』山本和郎(著) 東京大学出版会
 大学に入った頃に読み,とても影響を受けたものです。大学入学当時(1995年ごろ)にはまだ地域支援やコミュニティというものへの注目は心理学の中ではあまり盛んではありませんでした。どのようにアプローチしていいかわからずに,福祉学専攻や教育学専攻の授業に出席して試行錯誤していた頃を思い出します。
・『文化的実践としての発達』バーバラ・ロゴフ(著) 新曜社
 発達心理学に関心がある人にも,文化社会的アプローチに関心がある人にも,家族関係に関心がある人にも,フィールドワークに関心のある人にも,さまざまな人が関心を持って読める本だと思います。けっこう分厚いのですが,訳がとてもよく,事例も豊富で楽しく読めます。
・『アクティヴ・インタビュー―相互行為としての社会調査』ジェイムズ・ホルスタイン,ジェイバー・グブリアム(著)
 インタビューという調査方法を用いるにあたっては,調査者としての自分という存在がどのようなものであるのかについて,ぼんやりとですが考えてきました。特に縦断研究を行うようになってからは,協力者との方との関係性や自分自身の属性やアイデンティティが語られる内容に影響するのを如実に感じるようになって・・・。そのような問題関心を持つ方に参考になると思います。『“語り”と出会う―質的研究の新たな展開に向けて』(ミネルヴァ書房)も,インタビュー研究のあり方について考える際に有用だと思います。 


⑥家族心理学に興味を持つ後輩に一言。

 家族心理学ということに特化したことではないのですが,とにかく広くたくさんの情報に触れることが大事だと,特にここ1年くらいでより思うようになりました。学術書や論文だけでなく,社会情勢や流行など色々な情報が研究について考える際の糧になるような気がします。また少しでも情報があると,知らない分野の話でも聞く気になります。特に学術的な話題では,ちょっと用語や人名を知っているだけで親しみやすさがまったく違います。そこから新しいアイデアが沸いたり,新しい情報へとつながっていくという体験を多くしました。
 ただ学術的な情報に関しては,自分の専門分野に関することで手一杯になってしまいがちなので,あえて専門分野以外の本だけを図書館にこもって読む日,を設けるようにしています。また,分野違いの方と話す機会があったら積極的に参加するように心がけています。先日「図書館情報学」という分野で発表をさせていただいたのですが,そこでもインフォーマルな話の場を設けていただき,勉強になりました。

 

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