【若手/実践家に聞きました】

 

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モラロジー研究所
御法川渚朝先生インタビュー
(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)

インタビューアー:駒沢女子大学大学院 下川恵
武蔵野大学心理臨床センター研究員 高橋誠 

 

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①臨床に入ったきっかけ 

 大学を卒業して心理学を勉強しようと思い、大正大学のカウンセリング研究所に入りました。当時、カウンセリングについては全然知りませんでした。ところが、すぐに先輩から声がかかり、国立精神研究所で働くことになりました。日本で始めての精神病者のデイケアセンターです。 個人カウンセリングの勉強を始めたのに、国立精神研究所では、集団療法をやることになりました。そういうことに当時は凄い抵抗ありましたが、場所も近かったこともあり、そちらに行くことになりました。そこでは、個人療法のような1対1の話を中心にしようと思っていました。しかし、患者さんなので、家族との関わりや集団との関わりなどが重要なこともあり、いろんなところに話が拡がりました。時には話が広がり過ぎて、収集がつかないような感じになりましたが、僕はそこが面白いと感じていました。 その当時、国立精神研究所では、スタッフ間でも面白い取り組みをしていました。例えば権威的なことは全部止めようということです。そこには、偉い先生が沢山いらっしゃいましたが、「先生」と呼んだら100円罰金でした。先生が、「患者の前で、いつもスタッフが偉そうにしてるのはおかしいじゃないか。そして、スタッフの中でも上下があるじゃないか」と仰り、スタッフ間の上下関係をまず崩さないと最も対等な関係は出来ないんじゃないかと討論しました。そんな革新的なことを色々やったこともあって、とても学びが大きかったです。
 その後、父親がモラロジー研究所や麗澤大学に勤めていた関係で、モラロジー研究所に就職しました。研究所の中でそっとカウンセリングの研究をしながら、臨床をやってきたという感じです。モラロジー研究所は社会教育団体です。カウンセリング的な技法は、社会人に教育をしていく時にもの凄く役に立つということもあり、教育プログラムに生かそうとしたんですけれども、上手く行かなかったこともあって、中々過激なことばかりやってました。もちろん、社会教育の場ですから相談も沢山ありまして、その団体の中でのカウンセリングを中心にやってきました。当時、僕は25歳でした。
 これまで、忙しくてカウンセリングがあまりできない、研究ができないときも沢山ありましたが、50歳に近づいた頃に、“自分が最後にやりたいのは何かな?”と思ったんです。そうしたら、若い頃に志した臨床家になりたいと思い、それからまた本格的に始めたんです。そのときに、ハコミセラピーというアプローチに出会い、資格を取りたいなと思いました。すると、上司が「社会に認められる資格を取って欲しいんだ」と言ったわけですよ。僕が「臨床心理士ですか?」と聞き返したら、「うんそうだ」って言われました。それで、大学院に行って臨床心理士を取りました。 

 (下川) ハコミセラピーというのはどういうものですか?

 ハコミセラピーは、すごく心を落ち着けた状態でカウンセリングを進めていくんです。マインドフルネスと言いますが、瞑想状態で進めていくゲシュタルトセラピーみたいな感じなんですね。深く、変化が起きてきます。クライエントを尊重していきますから、非常に優しい感じです。ハコミセラピーは、本当に自分が変化したいと思ってる、深い変化を望んでる人には有効ですね。僕は、ハコミセラピーの認定セラピストです。ゲシュタルトセラピーも取りたいと思っています。あと、ファミリーコンステレーションという、ドイツの家族療法のひとつもやっています。それは、第2期トレーニングを終了しました。


②ブリーフセラピーを始めたきっかけ 

 ブリーフは、とても関心がありました。でも、チャンスが全然なく、ずっと本でしか勉強できませんでした。本を読んでるだけじゃ全然わからないじゃないですか。どこかで学びたいなとずっと思っていました。そういうこともあって、短期療法学ぶ会東京を2000年くらいから参加するようになりました。当時の講師は小野直宏先生と長谷川啓三先生でした。それからしばらく、長谷川先生の追っかけをやってました(笑)
  


③ブリーフセラピーが臨床で役立ったと思ったとき 

  僕は薬物依存症とその家族のカウンセリングをやっていていました。そして、セルフサポート研究所に行きましたが、そこではクライアント本人だけにしか会っていませんでした。そうすると、あんまり治癒率がよくないんですよ。確かに、薬物依存症になる原因が家族にあるのに、家族を変えずに本人だけ変えようとしてるわけです。この家族に対してアプローチしなきゃいけないと考えたのが、セルフサポート研究所の加藤力さんでした。もともとそこでは家族療法をやっていました。クライアントと接する時はどうしても暗い落ち込み型になるから、発想がブリーフ・セラピーのようになります。そこでのやり方見ながら、加藤さんと短期療法に参加していると、「ああ、うちでやってるのと同じだな」と思いました。そういうこともあり、薬物依存症の家族のカウンセリングで一番役に立つと思いました。 あと、スクールカウンセリングですね。スクールカウンセリングで、ブリーフ・セラピーができないと厳しいんじゃないかなと思います。要するに、スクールカウンセリングにおいては、根本的な原因などを探っていくような事例はそんなに多くないと思うんです。ほとんどは、システムをちょっと変えるだけで十分なわけです。ブリーフが一番有効だと思います。スクールカウンセリングは、2002年に臨床心理士取って、それから始めました。 

 (高橋) 確かに、スクールカウンセラーは、じっくりとその子と向き合ってっていう時間もなければ余裕もないですもんね。

 即効性があるといったらブリーフ・セラピーです。あと、TFTという、ソート・フィールド・セラピーというアプローチも使っていました。思考場療法って訳されていますが、それは軽いタッピングによって、トラウマなどを消してしまうというものです。中学生くらいだと素直なので、ウソみたいに良く効きましたね。TFTは2003~5年くらいに専門家向けのトレーニングに参加して、資格を取りました。

④ブリーフセラピーと他の心理療法とのコラボレーションについて

 (高橋) 一番興味があるのは、これだけの色の違うもの、どうやって上手く現場ごとにアレンジしてやられているかという点です。

 現場ごとに技法を使い分けているのではなく、クライエントごとに考えてやっています。クライエントに出会って、クライエントに最大の援助するには何がいいのかという感じで考えてみます。それから、クライエントに提案してみてから決まっていくという感じですよね。例えば、認知力のある人はTFTなどが効果的だと思います。ハコミセラピーは、自分の心を深く知りたいって思ってる人じゃないと難しいですね。ファミリーコンステレーションの場合には、言葉にするのは難しいんだけど(笑)、自分の生きてきたことの生きづらさを実感している人が向いているのかもしれません。例えば、「それはひょっとしたら自分の努力だけじゃなくて、その前からの影響があるかもしれません」という話をしても受け入れてくれる人ですね。

 (下川) クライエントに合わせて、それだけのアプローチを使い分けるのは難しいですよね。

 その考え方がまさにブリーフ・セラピーだと思います。ブリーフ・セラピーというのは凄い柔軟性が求められるじゃないですか?今までの考え方だと、原因結果で問題を考えてしまうけど、カウンセラーがそう思ったって、クライエントがそう思わなかったら違うわけですよ。でも、クライエントが受け入れないなと思ったら、違うアプローチが出来るのがブリーフ・セラピーだと思います。だから、これがダメだったら他のセラピーを持ってくるって言うのも、ブリーフ・セラピーのような発想だと思いますね。

⑤ブリーフセラピー以外の臨床

 (下川)ブリーフセラピー以外に、臨床に役立に立ってきたことはありますか?

 僕の基本はロジャーズ、それからハコミセラピーです。しかし、それらを学ぶ前にカウンセリングに難しさを感じていた時期に、クライエントは感覚を鈍くさせてるのではないのかと感じました。だから体の感覚を少し研ぎ澄ませる必要があると感じたんです。そこで、体と心の関係というのに興味を持ってやってました。体をほぐして、それによって出てきた感情をセラピーするっていうようなことをやってました。体と心のワークショップみたいな感じですね。
それから、個人のカウンセリングをするよりも、ワークショップをやること方が僕は多かったかもしれません。自分達で主催して、みんなの前でゲシュタルト的なワークをするというような感じです。そういうときに、別に指圧師がいるんですが、一生懸命体をほぐしてると、時々涙をぽろぽろ流す患者がいます。体がほぐれてくると、感情が出てくるんですね。それをワークしようというのが、「体と心のワークショップ」です。僕の臨床は、体へのアプローチをやりながら、ゲシュタルト的なワークをやり、そして、ハコミをやるという感じですね。
  


⑥お勧めの著書

 うーロジャーズの『静かなる革命』。あと、『ザ・シークレット』(著ロンダ・バーン,角川書店)。宇宙には法則があって、その法則を知るだけで人は幸せになれるという本です。ストーリーではなく、伝えたいメッセージがバーっと書いてあります。そういうことを教えてくれている人たちの言葉を、バーっとシャワーのように浴びせられます。ある物事に対してこの人は、こういう風に言ってるよとか、こういうことがいいんじゃないかということが書いてあります。
他には、小野直広先生の『107錠のこころの即効薬(看護・教育現場での悩みごとに即座に対応短期療法の実践事例集)』(日総研出版)、あと、シャーマーの“U理論”(『出現する未来』著P・センゲ,O・シャーマー他.講談社BIZ)。シャーマーは経営学者であり、企業家なんです。この本に関して簡単にいうと、経営学という違う土壌でも、カウンセリング的な感覚が違う形で体系化されてきてるんだなと思いました。人間教育って感じですね。いままでの経営学の人って、こういう風に考えてこなかったのではないのでしょうか。この本は、「あぁ、人間を捉えてきてるんだな」と感じました。今までと全然違った感じの本で、凄いなと思いますね。結局、自分をどんどん深めていけば、深めていくほど人と繋がっていくということです。 


⑦影響を受けた人物

 影響を受けた人というのは沢山います。一番最初に出会ったのが、国立精神衛生研究所の越智浩二郎先生です。とてもユニークな先生で、この先生が権威を止めようとか、先生と呼ぶのを止めようとか提案しました。もうお亡くなりになりましたが、越智先生のお友達の、はやしじんいち先生※にも影響を受けました。この先生達には、大正大学、カウンセリング研究所の中で凄くお世話になりました。そして、秋山達子先生や滝口俊子先生。それから、集団関係に関心持ったときにお世話になった、日本IPR(インターパーソナルリレーションシップ)の早坂泰次郎先生。感受性訓練に近いものをやっておられました。また、体と心のワークショップで、まついようこさんという大阪の方にもお世話になりました。精神科医では、高橋和巳先生です。この方は徹底的に傾聴をするんですよ。『心を離れて、人は蘇る』、『生まれ変わる心』。もちろん、小野直広先生と、長谷川啓三先生にも影響を受けました。

※インタビューの録音状態が悪く、特定出来なかった先生になります。

⑧気になる社会問題

 気になる社会問題としては、最近家族殺人が多すぎると思います。ニュースが多いのか、現実に多くなってるのか分かりませんが、家族殺人が多いと感じています。それと自殺が多すぎますね。この二つが凄く気になってます。結局、生きてく希望とかそういうものが失われてるんだろうなと思います。家族殺人でも、老人を抱えてく不安とか、そういういろいろな将来の不安が大きいんじゃないかと思います。家族殺人が起きると、家族の再生という話が出ます。家族の再生というと、家族という形を作ることから入ります。でも、こころの傷を持ったまま再生をやったら、傷の再生にしかならないんですよね。そういうところも気になっています。
最近では、結婚をしたくないという女性も増えてきているように感じます。何故結婚したいと思えないのかにはそれぞれの複雑な思いがあると思います。そういうところを完全に癒してあげなかったら、とってもしんどいよね。結婚しない若い人が多いっていうのは、それは親の責任だってことです。でも、子供達から見たら、親のせいにするわけにはいきません。だから、自分の心を癒して、人のことを信頼できるという人間関係作りのため、自分を治癒するために変わろうとします。そういう中で、これから家族療法っていうのは、もっともっと役に立つんじゃないかなと思います。癒すには、システムを変えてくってことも必要だし、ハコミセラピーのような個人セラピーも必要なのかもしれません。 


⑨印象に残っている出来事

 スクールカウンセリングやってるときに、とってもワルちゃんがいました。彼は相談室に来てて、「あいつを締めよう」というような話をしてるわけです。僕はそういうのは聞かなかったことにしていました。すると、「先生この部屋でシメていい?」って聞かれたので、「ここではだめだ」ということは伝えたました。しかし、いつ“シメる”のかは全然聞いてなかったんですね。それから、昼食の時間になって、その子達が教室戻って来ないと担任が探しに来ました。「あれ、向こうに行ったかな?」と、ついフラフラと担任と一緒に探しに行ってしまいました。すると、彼は締めに行ってたんだよね。発見が早かったので、締める直前で見つけました。そこで彼が、「てめえ、俺のこと売ったな!」って僕に言うんですよ。僕は彼に完全に誤解されてしまいました。昼休み終わりごろに、彼は皆がたむろしてるところに飛んできて、醤油板をバーン蹴飛ばして机の上に乗って、僕のこと見下ろしながら、「てめー!」と言ってケンカふっかけてくるわけです(笑)。ちょうどそのときに、授業の鐘が鳴ったので、周りの皆に「帰りな」と言いながら、彼に対しては、「俺が売るわけないじゃないか」と、毅然として立っていました。多分そういうような最後のところで怯まないというか、最後のところで勝負しようという姿勢が必要なんだろうなと思います。しばらくの間、彼には怨まれていたけども(笑)、そのうちまた懐いてきました。

⑩これからプロを目指す学生へのメッセージ

 (下川)いろいろ伺ってきましたが、最後にこれから臨床家になろうとしている学生や、興味をもって勉強してる方に伝えたいこととかありましたらお願いします。

 九州大学の十島先生の話を聞いて、すごい面白いと思ったのは、大学院生の時に十島先生は面接ヘタだったらしいんですよ。それで、どうしても上手く行かなくて、上手な先輩に、どうしたらいいんですかと聞いてそれ通りやっても上手く行かなかったそうです。今考えれば、“人の借り物でやってるからだめだったんだ”ということに気がつかれたそうです。僕はまさにそうだと思うんですね。つまり、我々はいろんな知識や技術を持っていますが、それによって自分自身を隠していたら、全然話になりません。やはり、誰が何を言うかっていうのが一番大事なわけじゃないですか?僕が相手に伝える時と、他の人が同じこと相手に言うときは違う言葉で伝えますよね?その人の言葉じゃないと無理なわけです。そのことが一番大事なんじゃないかなと思います。だから、自分の存在と相手の存在との出会いがあって、その上に初めて、いろんな知識とかが生かされてきます。もちろん、技術は学ばなければいけませんが、技術に振り回されるのではなくて、自分が技術を使えるようになるところまで、なるべく早く頑張ってなってほしいと思います。  それから、小野先生はとてもすごかったです。自殺するといういうぎりぎりの人でも、「大丈夫ですよ」という風に話を聞いていました。「えーこんなのどうしようもないじゃないか」と思ってしまうよう時でも、「大丈夫ですよ」って、言うんですよね。それぐらい、自分の腹が括られてるっていうか、腹の据わったすごい先生でした。

 (高橋)私自身も、腹を括れてないですし、臨床も自分のものになってない感じがあります。

 そんなもんですよ、若いときは。しかし、なってないなりに自分で勝負するということが大事だと思います。自分で勝負をするという側にいないと、理論や知識側の方ににどんどん乗っ取られてそのままだと思います。そうすると、自分のものになりません。カッコつけたいじゃないですか?でもそれをやってたらお終いです。もう恥をかこうが何しようが、じたばたしてもいいんです。それがちょっと慣れてくると、カッコつけて小手先でやろうとするから何やったって効果がなくなったりします。臨床心理士が、こんな有名な資格になってしまったから、怪我しちゃいけないなど色々なことを思います。でも、そういうことは関係ありません。じたばたしていいんです。もっとあがいていいと思いますね。プロの条件っていうのは失敗しないことですけれども、少なくとも傷つけないことが大事だと思います。でも、それでは成長にはならないので、卵のうちにいっぱい失敗したらいいと思います。責任は先生がとってくれるので(笑)

 (高橋)自分の家族のことが臨床に影響していると感じることもあります。

 人は、自分のイメージで人生を作ってるわけじゃないですか。そのイメージって、小さい時から作り上げてきているわけだから、そういうことは当然考えられます。でも、そういうイメージは、作り変えていいんです。ゆっくりゆっくり時間をかけて、自分のこと掘り下げていくっていうのは、そういうことだと思います。自分が成長していくことで、カウンセリングがより深まっていくと思います。そして、自分自身が自由になった分だけ、クライエントさんとの接し方も自由になっていくと思いますし、クライエントさん自身も自由になっていくと思います。慌てず、慌てず、ゆっくり成長してほしいと思います。

 

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