【若手家族心理学研究/家族療法家に聞きました】 

 
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鳥取大学地域学部地域教育学科 講師
神谷哲司

 

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
 
 
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①研究テーマはなんでしょうか? 

 大学院に進むときのテーマが「父親の発達」だったのですが,その後,家族システムという視点を学ぶにつれて,どうやら父親だけ見ていてもしかたがないのではないかと思うようになりました。なので,今のテーマは?と尋ねられたら「育児期家族における親・夫婦の発達」と答えるようにしています。あと,今は保育士養成に携わっている関係から,「保育者のキャリア発達」にも興味を持って研究を進めています。


②その研究テーマを選んだ理由・きっかけを教えてください。 

 長くなるけどいいですか?(笑)。もともと大学で心理学を学ぼうと思ったきっかけは何かと言えば,思春期の頃からずっと「大人になるとはどういうことなのか?」ということを考えていて,それで,高校の頃にはE.H.エリクソンのアイデンティティとかモラトリアムといった概念について漠然と学びたいと思うようになり,大学では青年心理学をやりたいなと思っていました。
 それと,もうひとつの出発点がジェンダーの問題でした。これも高校の頃ですが,たまたま週刊誌に上野千鶴子先生の『女遊び』(学陽書房)の書評が載っていて,なんだかよくわからないけれど「面白そうだ」って思って,ほとんどタイトルにひかれて(笑)読んでみました。そしたら実に,私自身が当時抱えていた疑問というか,問題意識というか,恐らくは自分の「やり場のない想い」といった青年期の心情にピタっとはまったんです。それ以来,ジェンダーの問題は自分の中でいつも関心の核となっています。
 ただ,大学に入ってからは,それこそまさに「モラトリアム」を謳歌しすぎちゃって,ろくに勉強しませんでした(笑)。そんな中,柏木惠子先生の集中講義を受講する機会があったんですね。ちょうど柏木先生が『父親の発達心理学』(川島書店)を上梓された頃で,講義内容もそれに即したものでした。また,そのころ所属していた学部の寺田彰先生と菊池武剋先生も母親を対象とした研究を始めておられていて,自分が興味・関心を持っている「大人になる」ということと「親になる」ことは,イコールではないけれども,通底するものがあるよなぁって思って。それで「父親」をテーマにしようと思いました。今思えば,そのときに「母親」ではなく,自分と同じ性である「父親」を選んだあたりに,思春期の固着が現れているのかもしれません(笑)。
  


③師・影響を受けた人は誰か?

 もちろん,指導教官であった菊池武剋先生には,公私にわたり粘り強くご指導していただきましたので,最も影響を受けていると思います。それから,ジェンダーの視点について,先述の集中講義以外には直接ご指導をいただいたわけではないですが,ご著作を通して柏木先生,家族システムの視点については長谷川啓三先生,また,大学院の先輩であった加藤道代先生には,実際の子育て家族と触れ合う機会の大事さを,それぞれご教示いただいたように思います。さらに,博士課程後期時代に受講した本郷一夫先生の講義は,「発達研究」というものを考えさせられるという意味で刺激的でした。それに,今までの面接や質問紙などの調査でお話をいろいろと聞かせていただいた調査協力者のみなさまも忘れちゃいけない・・・いや,実に影響を受けやすいので,挙げたらキリがないです(笑)。

④現在の研究テーマのほかにどのような分野に注目していますか?

 自分の研究テーマにかかわらない研究にはほとんど興味がないんですが,逆に言えば,自分のテーマは広範な分野にかかわるものでもあり,落ち着きなくあれこれと目移りしています。そもそも,家族というのはそれそのままであるわけではなく,その時代や社会のあり方に大きく影響を受けているわけです。となると,今の社会を見るための視点,マクロでは政治や経済,文化といったものを扱う研究も入ってきますし,マイクロでは,二者関係のコミュニケーションに関する研究も押さえなくちゃいけない。押さえなくちゃいけないと思っている割には時間がとれずに押さえちゃあいないんですけどね。ただ,それだけ広範な興味対象ではあるんだけど,すべては自分の興味・関心,つまり「大人の発達」というアンテナに引っかかるものなんだろうなぁと思います。そういうところでは,最近は特に,保育士養成との関連で子ども家庭福祉や保育現場に目が向いていますし,関連する共同研究も進めているところです。一方では上記以外にも,情動に関する発達研究や進化心理学,文化心理学といったところに関心を持っています。 


⑤お勧めの本もしくは論文を教えてください。

 うーんと,家族心理学を学びたいという方へのお勧めということであれば,岡堂哲雄先生の『家族心理学講義』(金子書房,1991年),柏木惠子先生の『家族心理学』(東大出版会,2003年)の2冊を。いずれも,研究者を目指す方だけでなく,家族心理臨床を志す方にも必読だと思います。また,ジェンダーに関する本として,鈴木淳子先生・柏木惠子先生の『ジェンダーの心理学』(培風館,2006年)。それから,手前味噌のお約束として,松村和子・澤江幸則・神谷哲司(編著)『保育の場で出会う家族援助論』(建帛社,2005年)を(笑)。あと,心理学にこだわらないのであれば,とにかく若い人には多くの本を読んで欲しいと思いますね。最近は二極化しているようで,読む人はたくさん読むんだけど,読まない人は本当に読まないみたいですし。少なくとも心理学や心理臨床を志すのであれば,専門書に限らず読書は大事だと思ってます。そういう意味でのお勧めは・・・,その時々で次々といい本が出てくるので,これという1冊を選ぶのは難しいですし,まぁ,個人的な嗜好でしかありませんが,今年読んだ中で印象的だったのは,森博嗣さんの『四季シリーズ』(講談社文庫)かな。それに,家族に関する作品ってことでいえば,鷺沢萠さんの『ウェルカム・ホーム!』(新潮社文庫)と西原理恵子さんの『毎日かあさん』(毎日新聞社)をお勧めします。 


⑥家族心理学に興味を持つ後輩に一言。

 『研究者を目指すのなら臨床現場を忘れないこと,心理臨床家を目指すのなら調査・研究を忘れないこと。』諸先生方もご指摘されていることと思われますが,家族心理学において,現場と研究というのは車の両輪なので,常に実際の家族の姿と理論とを照合させることは必要ではないかと思います。そういう意味では,最近の若い人たちは,研究そのものよりも現場へ目が向いているところがあると思うので,「ちゃんと学問をすること」を推したいです。特にそこでは,「勉強する」と「学問する」ことの違いについても踏まえておくことが必要かとも思います。それから,「学問をする」ことと同時に,「現場」というくくりだけでなく,一個人として「できるだけあらゆる世代の人たちとたくさんかかわること」も大事だと思いますね。若いうちのそうした体験が,後々の現場と研究の融合に活かされるのではないでしょうかね。ってゆーか,単なる酔っ払いオヤジの説教みたいに,自分のことを棚に上げて尊大ですけど。トシとったんですかねぇ・・・,まぁ,自戒をこめて(笑)。

 

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