【若手家族心理学研究/家族療法家に聞きました】

 

hasegawaakihiro

 

 

 

 

 

金沢工業大学
長谷川  明弘 先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)

 

 

 

 

 

どのような分野・現場で臨床に携わっていますか?

 現在は大学の学生相談で主に臨床実践しています。2012年で10年目になります。大学院併設の臨床心理センターでも細々と実践しています。1997年に大学院を修了してからは、新潟の精神科病院にて認知症を持った方とその家族への支援をして常勤職の臨床心理士として3年勤務しました。また東京では、心療内科クリニックにて心身症を持った方への支援と、EAP(Employee Assistance Program)機関にて従業員とその家族に対して電話相談並びに面接での支援をそれぞれ非常勤で3年間行っていました。その間に不定期ですが、派遣カウンセラーとして小中学校へ赴いたり、学童保育所の指導員への巡回相談を経験したりしました。学部生の頃は、児童相談所の一時保護所に非常勤で勤めていました。 

研究テーマはなんでしょうか?

「統合的な立場からみたブリーフセラピー」の実践研究を大きな研究テーマとしています。私は、狭義のブリーフセラピーだけでなく、催眠法や臨床動作法を心理学的介入法の主な参照モデルとして実践しています。心理学的介入法のどんなアプローチやモデルであれ、効果的で効率的な実践をどのようにしたら可能となるのかに焦点づけた実践研究をテーマとしています。
また東京都立大学大学院に提出した博士論文は、「高齢者の生きがい」をテーマとしていました。生きがい研究は、今も、微力ながら取り組んでいます。 


家族療法は臨床にどう役立つか、どう役立てていますか?

 システミック・アプローチの枠組みは現場で生じる現象を把握するのに有益だと実感しています。家族という枠に限定せず、変化のためのリソースのひとつとして家族があるという観点で実践しています。また家族を取り上げることはライフサイクルの観点からどの世代にも実践する上で手がかりとなる視点を提供してもらえるものと考えています。 

臨床家を志したきっかけ、そしてそのなかでも家族療法家を志したきっかけは何ですか?

 愛知学院大学の学部1年の頃に当時新潟大学に勤めておられた宮田敬一先生のワークショップを受けたのがきっかけです。当時はブリーフセラピーではなく「家族療法」というタイトルで研修会が開催されていました。愛知学院大学を卒業後は新潟大学大学院へ進学して宮田先生から指導を受け、2011年2月に宮田先生がご逝去されるまで公私にわたる指導を受けておりました。裏話になるかもしれませんが、東京の武蔵小金井にある飯森クリニックでは宮田先生と私は同じ非常勤で働く臨床心理士でもありました。
 家族療法家といわれると自分の中では枠組みが限定されすぎて違和感がありますが、家族をも念頭に置いた実践を行う臨床家という自覚をしています。愛知学院大学在籍中に「家族の相互作用と公正さの発達」というテーマで卒業論文を書きました。ピアジェ、コールバーグ、デーモンという流れに沿った公正概念の発達と両親だけでなく祖父母と孫の相互作用との相関を取り上げた面接法並びに質問紙法による研究をしました。今思えばつたない研究ですが、もしかして愛知学院大学の大学院へ進学していたら発達心理学・教育心理学の研究者をめざし、家族をテーマに研究していたと思います。家族に対する問題意識が高かったからこそ臨床家を志していったと思います。 


お勧めの論文を紹介してください。

「成瀬悟策(1997)エリクソンを偲んで(ブリーフサイコセラピー研究,Vol.6:45-57)」です。ミルトン・エリクソンと親交があった成瀬先生が思い出話と共に臨床心理学に対する期待や要望を述べておられます。
「宮田敬一(1994)ストラティージックセラピーにおけるディストラクションの意義(ブリーフサイコセラピー研究,Vol.3:151-155)」と「宮田敬一(2009)ブリーフセラピーに催眠的介入を組み入れることの意義(催眠学研究,51:21-28)」は、ディストラクションに注目して、論考を深めておられます。
「Rogers CR(1955) Persons or Science A philosophical question(Amer. Psychologist,10:265-278)」と「Rogers CR(1963)Toward a Science of the Person(人間科学をめざして)」は、臨床と研究の成果を出していったロジャーズの科学哲学を知ることが出来る論文です。
それと、こういうところで宣伝しないとあまり読んでもらえないと思うので私の論文(共著)を1本紹介します。「『ブリーフサイコセラピー研究』の動向と提案:創刊号から16巻までの掲載論文に基づいて』です(ブリーフサイコセラピー研究,Vol.19,No.1:15-27,2010)。有効性・効率化に焦点を当てるブリーフサイコセラピーのための実践研究モデルを提案しています。 


お勧めの本(臨床心理の本に限らず、臨床に役立つもの)を教えてください。

  トーベ・ヤンソンによるムーミン童話全9作品です。講談社から2011年に文庫の新装版が出ました。私は学部の頃に手にして通学の時に読んでいました。特に「ムーミンパパの思い出(講談社文庫)」がお勧めです。どの物語にも個性的な登場人物だけでなく、その登場人物の間の関係性などについていろいろな連想が湧いて来ます。
  立松和平の「道元禅師(東京書籍)」や司馬遼太郎の「空海の風景(中公文庫)」は、心理臨床とは領域が異なるとはいえ、ひとつのものを追求する姿勢に触発されました。
  お勧めの専門書として第1に挙げるのは、「ミルトン・エリクソンの心理療法セミナー(星和書店)」です。ミルトン・エリクソンの創造的な臨床実践について研修会に参加しているかのように学ぶ機会となります。
他に「ミルトン・エリクソン入門(金剛出版)」や「アンコモン・ケースブック(亀田ブックサービス)」です。前者は、多面体といわれるエリクソンの臨床についてひとつの切り口から解説されており、文字通り入門書として最適です。後者は、エリクソンの公刊された全事例の要約とその出典が記されています。大学院を修了した駆け出しの頃に、これらの洋書を手にして、エリクソンが対応した事例を読んでは、自分が対応した場合にどうするのだろうかとイメージを膨らませる努力をしていました。
  さらにブリーフセラピーの古典的名著として「戦略的心理療法(黎明書房)」「変化の技法(金剛出版)」「アンコモンセラピー(二瓶社)」「短期療法 解決の鍵(誠信書房)」は、お勧めしたいです。 


家族療法のほかにどのようなアプローチを臨床に取り入れていますか?


既に話題にしましたが、催眠法や臨床動作法です。またブリーフセラピーというとソリューションフォーカストアプローチが広く知られていますが、ストラティージックアプローチやMRIアプローチの視点も取り入れながら臨床活動をしています。 

 

師・影響を受けた人は誰か

 直接指導を受けた宮田敬一先生やその師の成瀬悟策先生です。この業界の人にありがちですが、ミルトン・エリクソン先生とカール・ロジャーズ先生の影響も大きいです。どの方も、臨床に長けているだけでなく、実験や調査といった研究にも長けていました。見習いたいと思っていますが、なかなか追いつきません。

 

臨床家のたまごに先輩として一言

 催眠法を1度学習経験されることを勧めます。研修を受ける場合は、日本催眠医学心理学会や日本臨床催眠学会など学術団体が主催する研修会がお勧めです。精神分析、行動療法(特に系統的脱感作)、心理劇、ゲシュタルト療法、臨床動作法、ブリーフセラピーなどほとんどの心理療法は、催眠から派生したといっても過言ではありません。個人的な見解ですが、催眠が特別なものではなく、臨床家にとって当たり前のものになるくらい普及したら、この業界が底上げできるのではないか(?)と思っているくらいです。催眠は、臨床と研究の両側面から取り上げることを可能にする領域です。あくまでこれは自分の腕や能力は傍らに置いた上での話です。私自身は「たまご」から殻を破りたいです。 

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