家族心理学研究者の第一人者にインタビュー

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yoshikawasatoru
龍谷大学大学文学部教授 
家族研究・家族療法学会副会長
吉川 悟先生
(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
メインインタビュアー 「家族心理.com」スタッフ
狩野真理

愛知学院大学大学院
棯木雄史

 

 

 

 

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1.(狩野)先生の御領域/ご研究のテーマをわかりやすく教えてください。

 

家族療法とかシステムズアプローチと考えて頂いていいと思います。でも、家族療法か?と言われたら違う、ブリーフセラピーかと言われたら全然違う、もっと下位カテゴリーで,構造的な家族療法ですか? って言われたら似てるけど違う。
 独自路線でやっている方法論だから,システムズアプローチという名前がついてる気がします。日本で使ってる意味での,システムズアプローチっていう英語の単語はないの知ってる? いわゆるシステム認識,システムという見方を用いた思考ができることを,システムズ・アプローチとして60年代70年代に言われていた。だけど,日本で使っている意味と微妙に違う。システムズアプローチは勝手な造語なんです。

 

(狩野)先生が御著書に書かれてあるのを読みました。

 

 そうそう。あれはもう,東氏と二人でこれでいいじゃないかって勝手に作った。もう一つこれも知らないと思います。システム論的家族療法って英語でどう訳すの? Systematic Family Therapyって言ったらミラノ派のことでしょ? そんなのない。でも誰も不思議も違和感もなく使ってる。あれも勝手に二人で作ったんだよ(笑)。1980年代、他の家族療法の、いわゆる家族原因論に基づく家族療法を避けたいと思った。その頃はシステムズアプローチっていう言葉はなかったので、システム理論に基づく家族療法っていうのは長いから,システム論的家族療法にしようと作った造語です。
 そういうスタンスでやってるので、興味関心領域も、説明のしようがないかな。だから,発想や考え方のベースの多くの部分は、家族療法に拠ってたつ部分はあると思うけど(笑)。
 昔の家族療法は家族だけ見ているといわれていますが、システムズアプローチって何が違うかというと,自分と人とのやりとりしか考えてない。その違いをどうでもいいとは言わないという,そこにこだわってる。

 

2.(狩野)どのような問題意識から活動や研究をされていらっしゃいますか?

 

基本的に最初からずっとファミリーセラピーだという風に考えてもらえばいい。従来の心理療法の,「木を見て森を見ず」という話があるけど,それが一番の問題意識と考えてもらったらいい。別に森を見ればいいわけじゃないけど。
 また、どのようにセラピーのトレーニングをしていけばいいか、という問題意識があります。自分のオリジナリティーをどこかの段階で入れていかないと,師匠の面接を真似てって,それで身に着くと思うの? 自分なりに考えて面接に入って,レポート書いて,添削するって役にたってる? その形式は。

 

(狩野)やはり実際に面接されてるところを見て,自分で見て全体を見て,面接している家族と治療者,先生がおっしゃっるような視線や細かい動き全てを、全体を見れる場所から見させて頂きたい。そしてまとめて・・・

 

 どうなんだろう。私にはとてもそれじゃあ伸びるとは思えないし、伸びるのに時間かからない? 場面をどう理解して,その中の要点が何で,そのとき何をどう振舞うべきかって形があって,それを連続して行えるようになればいいんだったら、ロールプレイの方が早いじゃない。
 ただ,そういうコンマ何秒の動きをちゃんと見ていける、指導ができる,人間がいるところでロールプレイしなければ。人の面接見て「感動しました」って,それて、大事なことは何も覚えてない(笑)っていうのが普通だと思う。

 

(狩野)実習という,練習でしょうか?

 

振舞い方って技術でしょ。技術は考えてやるもんじゃないから。いわゆる意図して身について振舞えて、その上で忘れてやっと一人前。それがいわゆる自然に振舞うっていう話なんだよ。

 

(狩野)そこまで行くのがなかなか難しいんじゃないかと思うんです…

 

面接に陪席してどうこうしたから得られるんじゃなく,見てて得たものを試さないと駄目だと思う。で,こっち側の振る舞いの問題と,向こう側の受け止め方のそれぞれのバイアスを,どうやって理解していくかの繰り返しじゃないのかな? それを妙に,人格特性はこうだから,こうするというのはセラピストとして下手になるだけでは。 
 それぞれのトレーニーがどうしたいという意図と,それを達成させられる方法論との間のつながりを,トレーナーがもたないこと自体が結構大きな問題やと思うけどね。
 あと学部生は,臨床の本できれいな話を読むだけではなく、面接を見る機会があればいいと思うんですね。そんなきれいな話じゃないってわかってないと。大学院にいってから、向いてなかった、できないって言われてもね。そういう教育ってどこで受ける?(笑)

 

(棯木)スーパービジョンなどで単発的にかなと思います。

 

てことは,スーパービジョン受けられるケース数しかやっちゃいけないことになる。そういうのはおかしいと思うけど。若いうちにそれこそ,死ぬほどやったらいい。朝から夜まで寝ないで。一日に2,30見たらいいよ。ケースを。頭ん中も真っ白になるだろうし。あるケースは馬鹿やったら殴られるかもわかんないし。ドロップアウトされるかもわかんないし。アクティングアウト起こされるかもわかんないし。うまくいくかもわかんないし。それで考えるしかない。
 医学部の教員っていうのは,心療内科や精神科での繊細な患者であっても、研修生に見られていようが何しようが,ちゃんと人に対する対応の仕方を基本にしてる。心理だけ何で密室なの? それで教育なんてどうやってやるんだろうと私は思うけど。それが,日本の臨床心理の問題じゃないですか? 自分が臨床をやってるところを見られて,人から批判されることに慣れてないんだよ。

 

3.(狩野)吉川先生の,影響を受けた人物とかは,教えて頂けますでしょうか?

 

 一人は東氏。あとは順番にいえば,エリクソン、ミニューチン,アンドロフィー、ウィテカー,そういう人たちだと思います。
 その他は、日本人だとシステムズアプローチ研究所のスタッフじゃないですか。あまり名前は知られてない人たちばかりですけど。最初からいる山縣千鶴子とか,他にもシステムズアプローチ研究所にいる 阪幸江、長瀬信子とか。あとは、医者だと楢林理一郎先生。全然分野は違うけど,おもしろかったし師匠みたいなのが野村直樹さん。あと同じ野村だけど、野村雅一先生。多分、ミニューチン、ウィテカーが,一番影響受けたと思います。

 

4.(狩野)この領域に興味をもたれたきっかけを,教えて頂けますか?

 

個人療法家が子どものケースを治しているうちに,親に邪魔されることがある。あとやんちゃなケースって,本人と仲良くなるのは簡単。でも,親と同時に仲良くなるのって難しいってこと。
 あとは、その人が住んでいる社会・環境的な要素。やんちゃなケースをどうするか考えたときには,例えば麻薬の売買が当たり前な地域に住んでいれば,否が応でもリスクは高い,それは本人だけでケアしようと思っても無理。そういうきっかけが一番大きい。
 あとやろうと思った当時に、ファミリーセラピーをやってる人がそれほどいなくてマイノリティだったって言うのがある。分裂病を対象とする家族療法の流れと、不適応を治す東氏がいた。決定的に違うのは,不登校は治って当然。5回で治して当たり前っていう世界は、やっぱり今でも画期的でしょ。別に早く治るのがいいわけじゃないけど,それが冗談じゃなくて本当に治っちゃう。いわゆる週刊誌ネタになるくらいのものだった。神経症はともかく、いわゆる単純な不適応は治って当たり前っていうのは、今現在でも誰も言わないんじゃないかな。それが魅力だった理由じゃないですかね。
 それと、普通はほら,人の面接って見ることができない。そういう時に技を盗むには、例えばニューチンの本の中に逐語があるじゃない? 例えばその逐語で,誰が何をどういう意味でどう言っているのかを理解するために,このときどっち向いてんだろうとかどんな顔してんだろうとか読みあわせをして考えてみる。

 

(狩野)すごくそれが大事なことなんですよね?

 

そう。面接の中で,お父さんが横で怒ったりふてくされたりしているのに,視線をずっとお母さんに置き続けたらまずいでしょう。じゃあ怒らさないようにするためにも、きれいに入らせるためには,ある程度の視線を送っておいて、お父さんが入りたいタイミングにグッとやればいいわけでしょ? そういうトレーニングは基本だと思っているんだけど。…そんなびっくりしてるの?(笑)

 

(棯木)自分は言語的なものを逐語で起こして,またその言語から推測できることってのが主だったんですけど…

 

あ、そう~。面接の最初って座るまでが勝負だっていうトレーニングがあるんだけどね。座るまでって、言語的にはほとんどないでしょ? 初めましての挨拶ぐらいだし。ホントの面接だったら、そこまでがちゃんとできるかが本当に大事な話だと思う。それが面接の場面で、普通に自然にできることのトレーニングの方が,言語の内容よりももっと大事だと思います。


(狩野)吉川先生の教育のスタンスは,先生が先ほどおっしゃられたように,どんどん,同席して,盗んでいくというものですか?

 うん。好きなだけ盗んでいって下さいというスタンスです。そっちよりも,もう一つのロールプレイのトレーニングの方が,みなさん本気になっている。システムズアプローチ研究所でやっている上級のトレーニングですが、FT研(コミュニケーション研究会 主催)は,もうずっとロールプレイです。二日間,朝から晩までずっとロールプレイ。だから、最初は大概の人が半日でもうもう頭が真っ白になります。自分の行動をいかに意識しないでやっているかがわかると思うので。だから最初にトレーニングなり,何が必要かがわかった上でやらないと大変なことになるのは間違いないと思います。

 

5.(狩野)最近の社会問題で気になるテーマは?

 

臨床心理士の数は増えてるし,今の中高生でも関心持ってる人多いけど,いわゆる3K仕事だってちゃんと教えてないでしょ? 人をラベリングすることで、自分の方が優位に立てると思っている学生もいるし、人の援助をすることで社会貢献できると感じる学生も多い。その意識では多分,ほんとの臨床にはならないだろうね。
 あと、臨床心理学は心理学によらなくていいと思う。人をよりニュートラルに見るための観点は、人類学のフィールドワークの方が大事。フィールドワークの手法のトレーニングが、臨床心理学の中に入って当たり前だと思う。方法論を知ってることと,それを応用して本当に対人援助に使うっていうこととは全然違うことだから。
 だから,技法っていうのは嫌いなんだよ。僕は「技(ワザ)」です。専門性がどうこうって,そんな高尚なもんじゃないと思うし。そういう意味で,家族心理学の世界なり家族療法の世界だってもっと変わったらいいと思いますけどね。

 

6.(狩野)オススメの本を教えてください。

 

もう今は絶版になってるけど,『家族万華鏡(ミニューチン,S.,信国恵子 訳 1986 誠信書房)』。本で何を読めばって聞かれたら、一番目にお奨めする。

 

(狩野)先生のご自身のご著書の中では?

 

臨床に興味がある高校生や大学生が読むなら,『家族はこんな風にかわる―新日本家族十景(上里一郎・西村 良二・山中康裕 監修 吉川・村上・東 編 2002 昭和堂)』
まじめな院生がまじめに勉強するんだったら,お恥ずかしいけど1993年のあの『家族療法―システムズアプローチの「ものの見方」ミネルヴァ書房』の本が一番いいと思う。
 臨床をやってる人だったら,ホントのホントに薦める本は,『システム論からみた思春期・青年期の困難事例(吉川 悟・村上 雅彦 編 2001 金剛出版)』という本の中の1章を一番薦めたいかな。すごく単純なことをすごく難しく書いてあるんだけど。でも,あれがちゃんとできないと何にもできない感じがする。対人援助の場面にいるんなら,ファミリーセラピーやナラティヴってことはどうでもよくて,自分がやらなきゃいけないことのスタンスを定めないとまずいんじゃないかという話。難しいかもしれないけど。

 

(狩野)基本的な姿勢について書かれてあるんですか?

 

認識論を具体的に具現化したら,こんな風に考えた方がいいという内容です。ミニューチンの『家族万華鏡』は多分手に入らない。再版して欲しい良書なんだけど。ミニューチンとしての臨床の考え方を、具体的にいろんな場面に適応させたらこんな風になりますっていう本だと思う。
 『システム論からみた思春期・青年期の困難事例』の一章は、そういう本が書けたらいいと思った入り口になったような章。1章にしては長いと思いますよ。100枚ぐらいは書いたと思うし。あと高校生が読んでおもしろいのは,東氏の『1993 セラピスト入門―システムズアプローチへの招待 日本評論社 』がおもしろいんじゃないかな。みんな騙されるから。こんなに簡単なんだ!って思って,痛い目にあうからね。あれはもう発禁ですよ(笑)。ホントに臨床やりたい人たちは読んじゃいけない本です(笑)。

 

7.(狩野)家族心理学・家族療法を学ぼうとしている,学生や関心をもたれている方に一言お願いしたいと思います。

 

臨床心理学はぜひやめなさい。(狩野・棯木,笑)。で,臨床心理士になってもご飯は食べられないから止めたほうがいいです(笑)。何よりも3K仕事だっていうことを随時意識したほうがいい。特に心理学を学んだ上で臨床心理学をやりたいと思うなら,ちゃんとフィールドワークの勉強をしなければ。いろんな専門知識はあくまでも人を理解するためのガイドラインであって技術ではない。自分が使いこなせる知識になれば,役に立つかもしれないけれど。)

 

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