家族心理学研究者の第一人者にインタビュー

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立正大学心理学部助教授 若島孔文先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
             
               インタビュアー  「家族心理.com」スタッフ 池亀真司
                                                高橋 誠

 

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(池亀) 先生の研究領域/テーマをわかりやすく教えてください。

 

研究領域は、コミュニケーションに関することとその変化かな。変化がどのように起こるのかについて関心があります。現在のテーマはいくつかありますけど、一つ目は情報回帰速度という集団の変化に関する事柄です。二つ目は、言語と非言語の統合メッセージ・モデルに関心があります。中心的なテーマはコミュニケーションだろうと思いますね。
 臨床上では、海上保安庁の惨事のストレス対策や、ひきこもり、虐待などの問題に対する家族療法などということになります。

 

(高橋) 先生は社会心理学の出身で少数者影響の研究をされていましたが、それは今どのように生かされていますか?
 情報回帰速度モデルという、今現在中心的に取り組んでいる基礎研究の考え方に影響してると思いますね。

 

(池亀) 家族療法でも色々あると思うのですが、中でも先生が精力的にやってらっしゃる研究というのは?
 

 信頼しているのはミニューチンの構造モデルとMRIのシェマですね。家庭内暴力のケースにM1が陪席に入っていて、1、2回目面接をして終結する。僕もM1もどうしてかわからない。でも、家族のインタラクションが変わっている、それだけはわかります。そのきっかけとしては面接に来た方が持ち帰っているものが1つありますね。ただ、それがうまくいくタイミングがあるとも思います。

 

(池亀) どのような問題意識から活動をされているんでしょうか。

 

問題意識としては大学の教員として恥ずかしくないように研究しなければいけないというのが一つあります。僕はもともとシステムやシステム論などの見方に関心があります。例えば臨床の「こういう事例があって、こういう人を援助したい」とか、そういう思いから臨床に入ってきてない。「システム論は面白いな」という、システムの変化というのは、どういうところから起こっているのかということにただ関心がある。そこから家族療法周辺に出会っている。研究も社会心理学領域の研究から二重拘束理論に進んでいって、最近だと情報回帰速度の問題に関心があります。

 

(池亀) もともと臨床心理学に興味をもたれていたのではないのでしょうか。

 

心理学がどう役に立つかというところに関心がありましたね。そうすると、我々がイメージしやすいのはやはり臨床になる。しかし、大学3、4年の頃に臨床の本を読みましたが、どうもピンと来ない。その中でマシだなと思ったのは行動療法です。また、水口禮治先生が『適応のための社会心理学的心理療法』という本を書かれていて、今で言うと認知行動療法に近いと思いますが、それも納得し理解できました。その後、ブリーフセラピーや家族療法に出会って、ピンと来ましたね。

 

(高橋) ファーストオーダーサイバネティクスの理論を経営や組織運営、セールスなどの臨床以外で適用された例があれば教えてください。

 

他の分野での適用って言うのはあんまり興味がない。色々なことに心理学は使えると思います。経営や金儲けなどの道具になると思う。ただし、僕自身はそういうのに興味ないから。ただ、例えば交渉のやり方のパターンを変えるとか、そういうのは行政の講座で10年近くやってきたけど。

 

(高橋) 日本で諸外国ほどブリーフセラピーが普及しきれていない要因について、先生なりの見解をお教えください。
 
 日本もここ数年普及してきています。学校現場なんかすごいよ。茨城、千葉、埼玉、神奈川、富山、新潟などの教員研修にはブリーフ・セラピーや家族療法が必ず入っています。

 

(池亀) 先生の師はどなたですか?また影響を受けた人物について教えてください。

 

僕の師は社会心理学では井上隆二先生、早川昌範先生、家族療法では長谷川啓三先生、児玉真澄先生、牛田洋一先生、そして、ITCのスタッフの先生方です。先生方の面接は上手でした。そこから学んだことは多いです。影響を受けた人物は中田豊之先生です。中田豊之先生は獣医師で数年前に亡くなられました。僕は小学生の頃、中田先生の助手として獣医で働きました(笑)。中田先生はとてもやさしい先生で、病気を治すために労力を惜しまず、損得抜きで治療をしていく方でした。例えば、毎日肉屋でハムを買って、患者犬のいる家に訪問して、薬の風呂に入れたり、注射したりする。でもお金はほんと少ししかいらないと言う。ハムの代金やガソリン代金なんかどうでもいい。そんな先生。僕が大学院に入るとき、その中田先生が言いました。「大学院に入ったら、血反吐を吐くまで勉強し、学びなさい」と。温厚な中田先生のこの言葉に驚くとともに、一生忘れない影響を与えてくれました。中田先生は理論家、実践家であって、教育者でもあると思います。中田先生は吉田松陰先生のようです。

 

(池亀) 長谷川先生からの影響は?

 

僕がはじめてあった頃の長谷川先生の印象はかっこいい先生だなー、でした。例えば、10年以上も前ですが、暴力のケースで、子どもが親を蹴ってくるというケースがありました。僕はワンウェイミラーの向こうにいたんだけど、僕はどんなふうに子どもが親を蹴るのか知りたかった。で、僕が長谷川先生に「今度お母さんにスネ受けを教えましょう」と言ったんですよ。そしたら長谷川先生が「私もそれ考えてたんや~」って(笑)。ユーモアだね。
 昔の逐語記録を見ると、こういうのがたくさんある。「昔から同じ様なことやっていたんだな」と思って。逐語記録に自分の考えが書いてありますが、当時は「本当に治療的ダブルバインドが好きだったんだな」っていうのも分かります。

 

(高橋) 先生はユーモアがお上手なのは何故ですか?

 

僕は昔からユーモアあったよ、小学校の頃からモテてたし(笑)。小学校の頃とかは面白いこと言ってモテてたり。勉強以外は全部得意だった。勉強って、五科目以外。体育とか、図工とか得意。

 

(高橋) 音楽は?

 

お、音楽は……苦手だったかな(笑)

 

 高校のときとかもユーモアあったんだよ。シャイだから、皆の前でわ~っていう面白いことは言わなかったけど。基本的には僕の父親がユーモアのある人なんだよ。天然っていうか。例えば、私の甥がまだ小さいときに「おじいちゃん、なんでここ毛がないの?」って父の頭を指して聞いてんだよ。そしたら「そこはおでこだからだよ。おじいちゃんはおでこが広くて頭がいいのだ」とか言っていた。ちなみに解説すると、頭のてっぺんまでおでこって説明してたということです。これ新手のリフレーミングかな?

 

(高橋) ユーモアのトレーニング法はありますか?

 

僕はユーモラスな発想って言うのはあったけど、笑わせようと思って笑わせるって言うのはまた違うよね。それは苦手だった。ユーモアを実際にテクニカルに出せるようになったのは、家族療法をやってから。トレーニング法なんか、難しいよ。そんなの、日常で練習すればいいんじゃないの?ふつうの会話で。面接場面で練習して欲しくないよね(笑)。まあ、面接場面でユーモアで怒った人はいないよね。それはセラピストが言うユーモアだから許されるのかもしれないけど。
 この前、例えばプレイルームで子どもが帰らない。それをチョコレートを出して「シャキーン。今日はこれでもう終わりだから、これあげる」って言う。そしたら今まで全然帰ろうとしない子どもが数秒で動き出す。武器があっても使うタイミングがわからなければ意味がない。「じゃあタイミングってどうやって覚えるの?」ってことです。やっぱりそれはいい面接を見ていくしかないんだ。ケースを100回見ても、1000回見ても意味ないんだよ。終結をどれだけ経験するかが重要。つまり、何回面接見るより、今まで「てめー!」とかそんなこと言っていた子どもが父親と一緒に散歩に行くようになるのを見る方がトレーニングになる。面接の終結を学ぶことがカウンセリングを学ぶってことだと、僕は思う。どうやって収束したか、それを見るのがカウンセリングのトレーニング。ユーモアも同じじゃないかな。MRIモデルってかなりユーモラスだと思う。円描いてそれでモデルが出来上がってる。こんなインチキないよ(笑)。その円が切れれば問題は解決するっていう。
 何でこれで解決するのか、未だにわかんない。でもわかっているのは、解決しているのはセラピストじゃなくて家族だってことだよね。

 

(池亀) 最近の社会問題で気になるテーマは?

 

社会問題で気になること多いですが、僕はやはり家庭や社会の中での教育というものに関心があります。親や教師が子どもに対してどうやって教育していくのかということです。僕の日常の中では親がどういうふうに子どもを見て、どう関わっていくのかに関心があります。比較的豊かな国に暮らしている中で、どのように子どもたち、さらに人間が生きていくことができるのか、そのための教育とはどのようなものなのかに関心を持ちます。あたかも多くのことがコントロールできるかのような幻想の中で育ち、だからもしコントロールできないものに出会ったとき、どうするのかなって、そう思うんです。

 

(池亀) どのような教育が必要だとお考えですか?

 

それが分からないんだ。ただ、子どもの教育って言うのを全て理屈でやってはいけないような気がしている。例えば子どもに愛情を与えなきゃいけないって理屈で子どもに愛情を与えるとか。そんなのパラドクシカルな状況はないと思う。そういう論理に心理学が加担することになり、非常に難しい自己言及のパラドックスを感じます。自然に子どもが大人から愛情を感じられるような伝え方をしていくことが心理学にとって重要な課題だと感じています。

 

(高橋) 臨床心理士の国家資格化に対する評価と、今後の日本の臨床の発展に対するビジョンをお聞かせください。

 

 まず、僕個人はね、国家資格とか興味ない。国家資格で人の相談活動を制限されることを危惧する。ただ、就職のことを考えると学生にとってはあった方がいいかもしれませんね(笑)。

 

(池亀) お勧めの書籍を教えていただけますか。

 

「一休さんの門」川口松太郎 講談社文庫
 これは一休さんを主人公にした小説。その中の一休さんの一揆への介入。一揆って言うとさ、焼いたりするんだよ。全部めちゃくちゃになる。貧しいことが一揆を生み、そして再び全てを失い貧しくなるという悪循環。ふつう自分が御坊さんだったら、止めようと思うじゃない。でも一休さんは「わかった、私がリーダーになる」と。リーダーだから、家を焼かないこともできるんだよ。すごい、パラドキシカルだよね。僕は尊敬していますね。すごく。研究室の鍵も、ふつう閉めるけど、開けっ放し。これは一休さんの門なんですよ。「盗りたきゃ盗ってけ、でも盗むようないいもんはないぞ」と。

 

「鎮守の森」 宮脇 昭 板橋興宗 新潮社
 べイトソンが消極的な生態学者だとすると、この人は積極的な生態学者ですね。ベイトソンは何か問題が起きたら、「ほっといたほうがいいんですよ」と。でも例えば宮脇先生は、火事が起きたら、森があれば火は広がらないとか、木があるだけで地崩れは止まるというふうに考える。彼が言うのは例えば「自然には多様性がある。多様性が自然の最も強い表現なんだ」。例えば整形ってあるじゃない、顔を変える。そんなのは個人の自由でいいけど、それぞれで顔が違うって言うのは自然の表現なんですよ。
 それと、「共生と共存と我慢。それが植物の世界では必要なんだ」ということも言っています。例えば、植物を植える、彼のやり方は植林の間隔も、すごい密度で、しかもすごい多様な種を植えるの。我慢って言うのは生態の秩序に合致しなきゃいけないっていう法則でそれを我慢って言っています。この3つをただ言うのは簡単。でも彼はそれを見せる。それが凄い。5年で森を作っちゃうんだもん。だからね、彼は森って何なのか、自然って何なのかを知っちゃったんだね。 もちろん、彼は植物学者で彼の理論は我々にダイレクトには繋がらないかもしれない。例えば、人間に淘汰というのは難しいと思うけど、植物は淘汰される。我慢とか忍耐ってさ、今、あまり世の中では聞かれない用語ではないでしょうか?このあいだTV で言語道断って言葉をやっていたけど、親や先生に言われたことある?

 

(池亀) ご著書では?

 

自分の本だと納得するものは一つもないです。ただ2000年のカウンセリング研究に掲載された論文は気に入っています(若島孔文・生田倫子・長谷川啓三 2000 葛藤場面に埋め込まれた矛盾するメッセージの伝達とディスクオリフィケーション -二重拘束理論の臨床心理学的研究- カウンセリング研究, 33, 148-155.)。過去の日本における二重拘束の研究のいくつかは、二重拘束の研究じゃない、ってことを指摘した論文です。

 

(池亀) これから家族心理学を学ぼうとしている学生に、一言お願いします。

 

やはり心理学は非常に幅広い学問だし、心理学って人間のことじゃないですか。だから他の周辺領域に広く関心をもって学んで欲しいです。家族の歴史的背景もあれば、時代の背景、お父さんがどんな状況で生きてきたのかとか、教育にしろ、景気の問題にしろ、一般的なニュースに広く関心を持って家族心理学を学んで欲しいと思いますね。あとは、ニュースやその本が書かれた文脈って言うのも考えられるような、家族心理学を取り巻く文脈に加え、それの情報を伝える文脈とかそんなところに関心を持って欲しいと思いますね。

 

(池亀) ゼミ紹介をお願いします

 

学部のゼミは3年から始まります。前半ではコミュニケーション語用論に関して本や論文などを知識の共有のために読みます。後半では自分の興味のあるものを見つけてきて、発表という感じですね。4年生は個人で自分の卒論研究に進めるように、指導します。大学院生は修士論文を出す前に最低1回の論文投稿。それから僕のところでは最低一回の学会発表を義務付ける、ということにしています。ゼミのムードは険悪(笑)、というのは冗談で、個性的な学生がそろっています。
 また、院生対象に家族療法の勉強会を4月からやります。古典から最新までを学ぶこととです。ジョン・ウィークランドの追悼で出版されたMRIの30年史などです。

 

 

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