家族心理学研究者の第一人者にインタビュー

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同志社大学社会学部教授  立木茂雄先生 
                 人と防災未来センター上級研究員
(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
             
          インタビュアー 「家族心理.com」スタッフ池亀真司
 
 

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①先生のご研究のテーマをわかりやすくお願いします。

 
 社会学・社会心理学・臨床心理学・計量心理学といった分野で培われた技術や知識を使って、日常生活で生じている様々な社会生活上の問題を現場で解決する活動をしています。

 例えば2004年7月の新潟・福井水害のときに、亡くなられた方をみると高齢世帯で、浸水してきたとき、身近な介助者がない方が亡くなっておられた。そこで、そういった方々を死なせないようにするにはどうしたらいいのだろうか、そんなことのソルーションを考えています。
 また、11年前、神戸の地震により大都市で多くの人びとの生活が大きな打撃を受けた。その人たち、そして地域や被災地社会は、どのように復興していくのかを11年間追跡調査してきました。
 最近では、世界貿易センタービル連続爆破テロ災害後のニューヨーク市、新潟や福井の水害、中越の地震、ハリケーン・カトリーナで大きな被害を受けたニューオリンズ市などの復興について、都市で災害が起きた時に復興はどのようなプロセス経るのか、また復興を進める上ではどんなことが大事なのかということをフィールドから考えてきました。
 復興を担当する人達はすぐに住宅やお金、都市の再開発などが復興する上で大切だと思いがちなのですが、実は地域、家族というものが持つ力が大変大きいことがわかってきた。ですから、新しい災害の被災地に出向いて復興についてお話しをさせて頂き、また新しい知見を現場で積み重ねることを続けています。
 家族や地域がもともと持っている力を強くする。それが一人ひとりの復興を進める上での鍵になることに気づいてもらいたい。そのために、これまでの被災地ではどうだったのか、被災地の人達がどんなプロセスを経て復興していくのか、そしてその中で地域や家族の持つ力が大変大きいことを、被災地の人達や復興の政策を組み立てている人達に話す。そんなことが今は仕事の中で大きな比重を占めています。

Q 具体的に家族の力というのは?
 
 家族システムの円環モデルというのがあります。1979年の『Family Process』にデイビッド・オルソン達が提唱したものです。家族をシステムとして捉えた時に、どんな家族が問題に対処する力が強いのかというもので、それが二つの要素から決まると考えます。一つが家族の成員間の「きずな」。つまり成員間の心理的・物理的な距離(きずな)が近すぎもせず遠すぎもしない中庸なきずなである時に一番成員の心理的安定が保証される。二つ目が、変化に対してどのようなリーダーシップを取るのかということで、一方的・独裁的なリーダーシップでもうまくいかないし、だれも対処しないというような状況でもうまくいかない。それを「かじとり」と読んでいます。「きずな」・「かじとり」が中庸であるということが平時(普通の生活を送っている時)とても大切だとオルソンは言った。

 円環モデルが日本の家族でもあてはまるのかということをテーマとして、20年間日本人家族に当てはまる家族尺度を作ってきました。しかし、震災後見えてきたのは、円環モデルでは「きずな」と「かじとり」が中庸である時、家族成員が安定しているということだけれど、なぜそうなのかということは説明していません。
 神戸の震災の時に5年目から毎年2年おきに3千名以上の方々を対象にし、1000名以上の方々からお答えが頂けている社会調査を続けてきました。99年にやった調査で、「震災直後のあなたの家族、震災から2,3日たったときのあなたの家族、2ヶ月たった時のあなたの家族、半年たった時のあなたの家族、はどうでしたか?」というのを円環モデルの尺度で回答してもらった。あわせて生活が現在どれくらいもとに戻っていると感じているかということも尺度をもとに測りました。そうすると震災直後、あるいは2,3日は「かじとり」については「融通なし」、つまり両親が極端にリーダーシップを発揮し、「きずな」については極端に「ベッタリ」であったと答えた家族ほど5年後の復興感が高いし、ストレスも低かった。ところが「半年たってからはどうでしたか?」と聞いたら その時は「きずな」や「かじとり」が中庸に戻ったと答えた家族ほど復興感が高いし、ストレスも低かった。
 そこから見えてきたのは、オルソンが言っていた、「きずな」、「かじとり」が中庸な家族が変化に適応的であるというのは、平常時の話だということです。震災直後は外からの資源が入ってこないから、家族の心理的距離を狭めて資源を内部で留保したほうが適応的であったし、「かじとり」についても緊急時に色々議論するよりは、リーダーを決めてその通りに動いたほうが適切に対処できたのだろう。ところが、半年たって資源や情報の流通が回復してきた場合、「きずな」が「ベッタリ」であり続けたなら外の資源・情報が入ってこない。だから、ある程度外から資源が入ってきて、まったく家族が「バラバラ」でもない中庸な「きずな」であるほうが適応的であるし、緊急的な意思決定が求められることもあまりない。つまり民主的なリーダーシップに戻ったほうがより適応的な家族システムであるということです。
 そんな結果を見ていたら、「臨床心理や家族心理をしている人たちは家族関係を所与の前提として捉えている」と思うようになった。でも、家族が適応的(健康)であるかどうかを決めるのは、家族に内在するメカニズムからではなく、家族と周りの地域社会の関係性(社会状況)の中で決まってくるのですね。
 家族はドーナツの穴のようなものです。家族の変容というのはドーナツの生地の部分が変わることによりドーナッツの穴(家族)が変化する、というように考えられないか。ドーナツの生地がないと穴も存在しない。だから家族を自明に存在している実体だと考えるよりは、今ある日本の社会の条件があって初めて成り立っている関係性の一つにしかすぎないと考えるようになりました。
 そのような視点から、家族療法家がとらえる健康な家族像を眺め直してみたのです。家族社会学には近代家族モデルというのがあるのですが。つまり、どんな社会でも近代化が進んだある時期に、両親と子どもの夫婦家族で夫婦と子どもとの間に世代間境界があって、リーダーシップは親が取り、子どもの社会化というのが家族の大きな仕事になるというものです。臨床家の人たちは、それが普遍的に家族の機能だと思っている。しかし、家族史研究が教えてくれるのは、それは近代化の一時期に出現する家族像でしかない、ということです。実は日本は1970年代半ば頃から近代家族モデルが主流の家族像になりはじめたのですが、現在では個人化が更に進行している。専業主婦的な家族像は、今では決して主流の家族像ではないし、何が適応的・健康的であるのかということも、現在起こっている社会的変動を抜きにしては考えられないと思います。
 それで研究をする対象が実体としての夫婦関係・家族関係よりは、むしろ個人を含めてどんな社会関係を取り結んでいるのかに関心を向けることが大切だと思うようになってきた。今ある家族の関係も大事だけど、それだけに縛られる必要も無いじゃないかと思い始めたのですね。
 30年前までは、家族療法やマリッジカウンセリングに興味を持っていました。それまでは個人の不適応というものを心の中の問題と捉えていた。それを家族療法というのは関係性の中で捉えなおそうとするところが斬新だった。ところが、やがて「家族心理学」という分野が確立することで家族関係性そのものが実体的な概念になってしまい、家族が社会と取り結んでいる関係性への視点が抜け落ちた。個人の心理や行動の変容にとって、家族は決して独立変数ではない。せいぜい、社会と個人を結ぶ媒介変数の一つでしかない。だから、さらに広がった関係性も視野に入れないと、良く生きるという問題は見えてこないと思っているわけです。

②先生の師は誰ですか?

武田建です。この方は関西学院のアメリカンフットボール部の監督でむしろ有名ですが、アメリカで精神分析学とロジャースの来談者中心療法の折衷的なアプローチを勉強してきて、僕が学生の頃は行動療法に移って、その先生のゼミに学部、マスターと在籍しました。
 その後、カナダのトロント大学で、マスター・Ph.D.と6年間学びました。家族療法の訓練もそこで受けました。ただ言葉の問題があったので、トロントでの勉強では計量心理学の方が主になっていきました。心理療法調査(サイコセラピーリサーチ)に興味があったからです。北米では、色々な流派の心理療法の治療効果を実証しているのですね。なぜそれが分野として成立するかというと、保険点数と関係するからです。心理的症状に応じて、どのようなセラピーであれば保険が降りるかが決まっている。エビデンス・ベースト・プラクティスというのが1970-1980年代から重視されていました。博士論文も、夫婦のコミュニケーションのパターンがカウンセリングが進むにつれてどのように変化するのかを実証的に調べることをテーマにしました。

Q博士論文ではどのような結果が得られたのですか?

16組の夫婦に対する8回の結婚カウンセリングセッションの逐語録をとって、その発話一つ一つについて発話内容のカテゴリーを決め、発話内容に伴う感情が肯定的か否定的かを判定していきました。これをもとにして発話カテゴリー間の連鎖パターンの分析をしました。カウンセリング初期で特徴的な連鎖というのは、一方が問題について訴えたら、もう一方は否認するという会話の連鎖が否定的な感情をともなって繰り返される。あるいは相手の行動について悪意のこもったコメントをすると、もう一方が否定的に反応するというパターンが繰り返し出現する。しかしカウンセリング終結期では、一方が問題を訴えたときに、それが肯定的感情を伴って同意される、というように変化していました。
 博士論文のデータをもとにさらに夫婦のコミュニケーション過程の計量解析をしてみました。ここでは、夫婦の会話の過程を計量的に数値化していったのですが、夫婦のやりとりの過程を時系列データ(心電図の波形のようなもの)として扱い、そのパターン化の程度を調べました。すると、カウンセリング初期ではやりとりのパターン化の程度が高いことが示された。それが、終結期になると会話のパターンに高いゆらぎが生じて、予測が難しくなっていた。カオス理論のモデルを使って非線性の解析というのをやると、カウンセリング後期では非線形性が増大しているという結果が出た。それが、まじめに家族心理学をやった最後かな。興味のある方は、私のウェブサイトwww.tatsuki.org/から、1995年3月に出した論文がダウンロードできます。

④最近の社会問題で気になるテーマを教えてください。

 災害のことをやっているので、災害から立ち直っていくときに公助によって助けられる部分と、自分で助けなきゃいけない部分に加えて、みんなで助け合う部分がすごく大切なのです。今までは「公」「私」という2つの部分で社会が成り立っていると思っていました。しかし震災ではっきりしたのは、みんなで助け合う部分が大変重要だということ。隣近所の方々によってたくさんの方々が助けられているんですよ。それが凄いなぁと思う。「公」、「私」の他に「共」という部分がある。これから日本の教育や福祉や環境や災害の問題について考える時には、「共」の部分をどれだけ強めていけるのかにかかっていると思っています。公共的なところを人任せにしない。財政的なことも含めて、です。公共というのは市民相互の関係性からつむぎだしていけるのだとことに関心がある。そう考えないと、これからの世の中は乗り切っていけないと考えています。

⑤オススメ書籍

臨床家は社会性が低いと思います。震災の時に、カウンセラーは自分の相談室に来て、クライエント役を演じてくれる人以外とは関係性を持ちにくい人種だということが分かりました。そう意味で、家族心理を勉強される方には、社会的視点から家族を捉えて欲しいと思います。落合由美子さんの『21世紀家族へ』という本をオススメします。
 家族心理学関係ですと、30年位前はカリカリに家族心理学をやっていましたから、アルコール依存症家族へのシステムズ・アプローチについて文献研究から始めました。その時にジェイ・ヘイリーの「Strategy of Psychotherapy」と出会った。大学の4年のときだったのですが、これは面白いと思った。武田建がサバティカルで日本にいなくて、学生が勝手に出入りできたので、研究室の書棚にあったのを読んでみたら面白いからこれをメインでやろうと思いました。交流分析とかもあったけど、ヘイリーが独創的で面白かったですね。留学してからはジョン・ゴットマンの「Marital Communication」のおかげで博士論文を書くことができました。ワツラウィックたちの「Change」にも影響を受けましたね。

Q御著書では

修士論文をもとに『親と子の行動ケースワーク』を武田建との共著で出しました。これはとっくの昔に絶版です。ミネルヴァ書房から出ていました。また、『オルソン円環モデル妥当性の研究』を川島書店から出しましたが、これも絶版です(ウェブサイト<www.tatsuki.org/>に全文を載せています)。『ボランティアと市民社会』という本もあります。これは家族とは関係ありませんが、アクションリサーチを通じて「公・共・私」型社会像の成立について考えています。おかげさまで、こちらは増補版まで出していただけました。
 臨床関係で今でも書店にあるのは『カウンセリングの成功と失敗』(創元社)ですね。最初は失敗だけを載せるつもりが、出版社が難色を示し、ちょっとは成功も入れてくださいと言われた。当時在職していた関西学院の先輩や仲間で事例を持ち寄りました。僕の事例はある児童相談所の失敗事例を持ち寄って分析しました。

⑥家族心理学を学ぼうとしている学生や関心をもたれている方へ

 家族はドーナツの穴です。それを実体と思ってはいけない。家族というのは決して独立変数ではない。今の家族心理学では家族を独立変数とする研究が主流に思えます。それだと、やがては単身者が家族形態では過半数を占めることになる日本では将来はないと思っています。個人の変化や成長が家族に依存しているというのは家族心理学の大きな発見だけれども、それを家族関係だけに閉じ込めるのはナンセンス。もっと広い社会的・文化的文脈のなかで変化や成長を捉えて欲しいと思います。

ゼミ紹介をお願いいたします。

主たる科目は家族社会学です。ゼミでやっているのは市民が集まって、意思決定過程に参画して、市民相互や行政・企業とのネットワークを通じて公共性を紡ぎ出していくような社会システムの事例の調査です。ただ、これは3年生の秋学期から始めます。
 3年生の春学期は主として関係論的な自己論を体験学習を通じて学びます。「自分とつながる・他者とつながる」というのがテーマです。頭でっかちになっている学生に関係性の中で自己が構築されることを実感してもらいます。「自己について知るために、私は他者を必要とする」ということをいろんなエナクトメントをしながら体験してもらう。さらに体験を補強する教材としてミードやガーゲンの書籍を使いながら、基本的には「自分について知りたければ、他者について開かれていなければならない」ということを体験学習してもらう。
 それから夏休みにフィールドに連れて行きます。毎年いろんなテーマが出てくるので、ある年は他者への信頼であったりしますが。今年はみんなで管理・運営しているものが地域にあることで地域への関心や興味が強まるということをフィールド調査したいという学生がいたので、都市のコモンズの機能を調べることをやっています。

ゼミ人数について

 3年が12人、4年が14人、マスターはM1が一人、D3が二人です。D3の学生の一人は、4月から専任講師で就職が決まっています。

 

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