【家族心理学研究者の第一人者にインタビュー】

 

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登校拒否文化医学研究所 所長
臨床心理士・牧師・獣医師

 

高橋 良臣先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)


インタビューアー
「家族心理.com」スタッフ
長崎あすか

 

 

①先生の御領域/ご研究のテーマをわかりやすく教えてください。 
簡単にいえば、思春期、青年期の人の心の問題について取り組むということです。特に病気ではないといわれる人の問題です。病気については治療マニュアルがあり、投薬すべき薬も決まっています。そうではなくて環境や関係で影響を受けて心のトラブルを起こしている方たちの研究をしています。 
実際に私は今、保健所の専門相談を7~8つ担当しています。ここには臨床心理士が非常に少ないです。そのような事を専門にやってきた人が少ない分野なのです。今、スクールカウンセラーなど、急に若い人たちが増えましたけど、長くやっていて専門相談に向いている人は少ないらしいです。それがいいことか悪いことか分かりませんが、今はやむを得ず専門相談を担当しています。最初に調査・研究をさせてもらったのが、不登校の社会学的な調査研究です。私の所に相談に来られた中から1000人を選択して、郵送アンケートを入れて返信してもらいました。トヨタ財団の研究費でやりました。約330~340返ってきたと記憶しています。例えば、どの程度の規模の学校から不登校の子が出るかとか、出現率はどれくらいかとか、どういう地域か(私のところに来るのは地域的に偏りがあるのは当たり前なのですが)など。親の所得は当時も聞きにくかったですが、質問しました。どちらかというと民間の機関に来るのは高学歴高所得は当たり前です。一般に適応指導とか教育相談とかは無料だから、その地域の人が行くし、所得に関係なしに行くというのは当然です。しかし、当時はほとんど教育委員会はあてにされていませんでした。結局私たちのところに来るのは、高学歴な人が多く、様々な機関を調べるのにすぐれた情報収集力を持っているような人たちでした。そこで、親の会を作って家族会のグループを全国に作ってなるべく自助グループでやるようにしました。二番目の研究は生理学的な研究をしました。もともと私は獣医で生理学に詳しいのですが、不登校の子を見ていると生理学的に問題がありそうな子が多いです。内科的にいえば、自律神経失調状態の人とか、脳の神経回路の問題が気になる人が多かったので、生理学的な研究をしました。三番目は、社会学的調査と、生理学的調査の統合的な研究をしました。結局、不登校の対応には生理心理学的な面の両方が必要だと結論が出ました。 

②どのような問題意識から活動/研究をしていらっしゃるのですか。 
思春期の子は将来可能性がいっぱいあるのにそこで停滞してしまって、家族も巻き込んで混乱を起こしている事が気になりました。後もう一つ、「俺が治してあげる」という世話焼きが多くて不登校状態にある人たちに対して理解とか解釈がかなり乱暴で非科学的だったからです。例えば暴力でたたきなおすとか、中には死んだ方や犠牲者が出ています。 
私は、人があまりやらない、注目していない部分について私の気になるところに目を向けて今までやってきました。だから、子供と一緒に生活をします。子供もその生活環境で刻々と変わります。生活環境が変わると気持ちや行動も変わってきます。最近は、IT機器でかなり問題の方向性が変わってきています。今まで口伝えで聞いていたこととか、目で見たこととか、実際に人に対面したり、図書館に行くとかで知識や情報を得るのではなくなりました。子供たちの生活の様相が変わってきています。 
長崎)人があまりやらないこと? 
私にとってはとても大事と思っても、心理の人は意外と生理学的な事は気にしないのです。特に脳の中の分泌物質が関係や環境から受ける変化は大きいです。心の構造は、成長過程で確実に確保していれば、そう簡単に揺れたりはがれたりしません。しかし今どきの子供たちは非常にせかされて、十分に自分が満足することなく次の事をやらなければならないので、心の構造が非常に弱体化しています。フロイト流にいえば自我が弱いというふうになるのでしょうか。コフート流に言えば心が断片化しているのです。 
私たちの時代だと、「お前何になりたい?」「獣医になりたい。」というと「獣医だったら苦手な物理、点数取らないと絶対入れないよ。」と言いました。私は「その先生が一番嫌いなんだ」と言いながらも、「受験までにはやるよ」とゆっくり取り組みました。今日の先生の場合は、もたもたしてないでサッサとすればいいんだ。やらないと入れないよとせかします。それでは自分のやったことをゆっくり確認して味わって満足して心に構造化する余裕がないように思います。 

 

③先生の師は誰ですか。また影響を受けた人物を教えてください。 
何人かいます。心理関係ではもう亡くなりましたが、早坂 泰次郎先生。当時立教大学の社会福祉研究所の所長をしていた人です。この方は実存哲学をしていました。非常に分かりやすい話をする先生です。対人関係のトレーニングという視点で私のやっている事を評価してくれた人です。私は子どもの人間性の全体を活性化しようという取り組みをしていただけで、対人関係という外とのつながりは自然にできると思っていたのです。早坂先生は、「対人関係のトレーニングで快い体験をしたら誰だって嬉しいだろ?」という立場にいます。まさしくその通りです。そのような事を教えて下さった方です。 
仲間という点では、岩佐寿夫先生とか。お坊さんで臨床心理士で、山梨の清水隆善先生。岩佐先生と私は同じ時期に開業している方です。 
(長崎)今、三名の方を紹介してくださいましたが、獣医や神学でも影響を受けた方はいらっしゃいますか? 
そうですね、1人は獣医の外科で酒井保先生。酒豪ですが、手術となるとメスがピタッと止まります。普段震えているのに!真剣なんだぞ!動物だって生きたくて生きているから粗末にしてはいけない。といつも言っていました。生きるということについて真剣に教えてくれた先生です。神学関係で印象が強いのは、岸千年先生。98歳くらいまで生きた先生です。大学以降の教育はアメリカで受けてきた方です。日本のキリスト教が保守的で閉鎖的な時期で、彼は苦労した人です。自分はやりたい事をやってるから派閥は作らないんだよという、非常に温厚な方でした。自分がやれる事を一生懸命やっていたら自分が輝いていられるし、それが素晴らしいことだ。岸先生のような人が教会に苦しみを持ってくる人と一緒に過ごせたらきっと教会に来る人は救われるでしょう。確かに神様の言葉を伝えることも大事だけど、私たちが本当にやりたい事をやって元気にしてないといけないです。そのような事を言うにこやかな先生でした。 
そのような人の生き方を見てきました。どこの派閥にも属さず、自由に動いていた人です。私も、派閥には所属しないのはそのような人の影響です。

 

④さしつかえなければこの領域に興味をもたれたきっかけを教えてください。 
実際に子供と生活してみると、大きな空白がいっぱいあります。他分野の哲学・神学・生理学から見ると荒削りだなぁと感じました。私はアメリカの精神分析の系統の人からの教育は受けました。日本での精神分析の人はほとんど神経学をしていないんですね。 
日本では生理学的な神経学は強くはない。欧米では神経精神学から精神分析に入る人が多くて、そのような人の影響を受けました。動物だから人間のような複雑な感情を持ちませんが、獣医として動物を見ていると人間にも共通する部分がいっぱいあります。私は馬が好きだから馬を診ます。馬に私がそっと近づいても馬は逃げません。私は危害を加えないと馬は私との関係で知っています。馬は目を見られるのが嫌いなので、私は目を見ないで接します。そうすると触らせてくれたり、乗せてくれたり、後ろへ回っても蹴られることはないわけですよ。馬も人間と心が通じ合うというか、つながりを大事にしたいと思っているのです。心理学的な部分と生理学的な部分と分析的な部分の解釈や理解を深めていく事を含めて、馬が何を考えて、なにを期待しているかを私が感じ取る共感応答機能がないと獣医はできません。心理も全く同じなのです。 
私が開業したころや、それ以前は、マニュアル通りにやる人が多くいました。例えば、来談者中心療法はこのようにやるなど。 
精神分析にしても、精神分析の解釈書でマニュアル通りに解釈をする人が多くいました。それは相手が喜ぶ解釈じゃないと思う事が多くありました。 
私は、今いる人が何を求めてきているのかなというところから出発しています。 

 

⑤最近の社会問題で気になるテーマを教えてください。 
思春期、青年期の人たちの性の問題です。インターネットを使っての援助交際であるとか、出会い系サイトといった、非常に軽い言い方に変えています。しかし、心の空洞をはっきり示している問題で、それは家族関係がおろそかにされているから起こっている事として、危機感を持っています。ほとんどが寂しい子たちです。寂しい子で共依存してしまう子と、憎悪とかを持って、人を殺さなければ気が済まなくなるような人がいます。秋葉原の事件や荏原の高校生の事件とか、茨城の事件とかいろいろあります。このような人に共通している事は、あるところまでは順調にきているけど、あるところで解離的な状態になるということです。実際に自分がやっている事が理解できなくなるとか、自分が何者かもわからないとか、何がしたいかもわからない、ふわふわした状態に陥ります。不都合な事や不利益な事や、不満があっても支えてくれる人がいない状態に長いこと置かれていた状態が共通しています。孤立していたけど、孤立していて寂しいと叫ぶ事が出来なかった人たちです。叫ばなかったけど、心の内に仕返しをたくらんでいるような人たちです。心の奥底に潜んでいる悪意や殺意は私たちにもどこかにあります。あるけれど、大概それは今までの体験を経て、善意やこころよさ等がしっかりできていて、滅多に出てこない。彼らの心はいつも揺れていて、支えてくれる人がいない。結果的には解離的な状態が起こって、気づいたらナイフを手にしているのです。 
この仕事をしていて感じるのは、母子が「お父さんがいなくてもいいよね。」という連合で形成している事です。もうひとつ夫婦として、「あの人とは家庭内離婚状態、性関係なんてない」と平気で言う妻の存在です。私は、その人たちに疑問を投げかけます。夫婦でありながら夫がいなくていいとはどういうことなんだろうね?あるいは、父母でありながら一方の父はいなくていいというのは、空しくないですか?母は父になれないし、妻は夫にもなれない。心を許して性関係を持てるのはその人だけでしょ?「他に友達作ればできるかも。」という妻がいます。頼むからそのような事はやめてくれと叫びたくなります。家族のコアの部分が崩れているのです。もともと、弱い家族構造なので、最も強い性関係もすぐ切れてしまうのです。このような事が気になっている社会問題です。 

 

⑥オススメの本を教えてください。 
金子書房から出ている、「不登校・ひきこもりのカウンセリング」(金子書房)が一番分かりやすいと思います。自分自身で書きたいと思った本なのです。今までは頼まれて書いた本ばかりです。自分の中で書きたいと思って書いたのがこれが初めてです。有斐閣などから頼まれて書きました。大概は編集者がこのような切り口で書いて下さいというのがほとんどでした。この本だけは自発的に書きました。もうひとつは、私のホームページに載せている「登文医研たより」。本ではないけれど、毎回読んで頂きたいと思っています。月に2~3回は書き換えています。一番新しい自分の考えや感じた事をそのまま書いています。 

 

⑦家族心理学・家族療法を学ぼうとしている学生や関心を持たれている方に一言お願いします。 
日本に限らず国際的に家族の問題は非常に重要です。心の構造の出発点は家族関係にあります。子供にとって夫婦にとっても結婚して連れ合いが出来ることが心の構造の出発点だと思います。心の相談に来る方と関わるためには、あらゆる面で家族心理学、家族療法は大切だと思います。ただ、技術におぼれるのではなく、そこにあらわれてくる家族心理学で編み出した人が言いたい事は何だろうかと読み取ってほしいです。今、学生に言いたい事は、心の成長の出発点は家族だということです。生まれて最初に関わるのはお母さん。お母さんは家族の中にしかいません。結婚して家族を作るという事は男女ともに負担ではあるけど心の成長の出発点だから重要です。ぜひ、そのような学びを大切にしてください。私は個人カウンセリングを中心にしていますが、背後には必ず家族を見ています。 

 

 

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