家族心理学研究者の第一人者にインタビュー

                        

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聖徳大学教授 岡堂哲雄先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
             
             インタビュアー  NPO法人MCR不登校・引きこもり研究所
                      家族コンサルタント  齋藤 暢一朗

 

 

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Q:先生の御領域/ご研究のテーマを教えて下さい。

 

いろいろなことをやっておりますね(笑)。今関心があることは、家族もしくはカップルの査定(アセスメント)の方法をまとめようと若い先生方と苦闘しているところです。日本ではどうしてもカップルという概念が無く、家族の概念が強いです。夫婦の問題、一方は何とかしたいと思っているが、他方はそうではないという場合にも工夫できないかと思っています。カップルについてのリサーチでは、D,H,オルソンが有名です。アメリカのミネソタ州で婚前カップルについてプリマリタル・カウンセリングをすすめいます。他にも、ラバーテとクシナートという家族心理研究者が、カップルアセスメントの研究をこのころから行い、最近それをまとめた本を出したようです。
 DV(ドメスティック・バイオレンス)の問題にも、以前より関心を持っております。DVに対する家族療法・家族カウンセリングは日本では遅れています。私は以前家庭裁判所の調査官・後に調停委員をしていたことがあります。夫の虐待から逃げて家裁に来ても 民事裁判の調停では妻と夫の両方揃わないと調停できないのです。しかし、DV被害者である妻は夫の顔を見るのが怖いでしょう。ばらばらには聞き取りが出来るのですが、夫婦一緒では無理ですよ。それで、結局できないということになる。そのとき家庭裁判所の無力を感じましたね。家庭裁判所は婦人相談所と連携してはいましたが、そこだと夫がすぐに見つけてしまいます。
 また臨床心理士教育における心理査定についても関心があります。臨床心理士にとって大事なことは、支援的な面接だけではありません。面接は臨床心理士に限らず、PSWやその他の援助職も行います。臨床心理士にオリジナルな領域は、心理査定つまりアセスメントです。査定に関しては、さまざまな質問紙や用具があります。それをきちんと学び説明しつつ行えるかどうかということが、臨床心理士として重要と思います。アセスメントには批判もありますが、日本人というのは思い込みで決め付けることがありがちだと思うのです。よってアセスメントというのは、有効な客観的な媒体となりうると思っています。

 

Q先生の師、または影響を受けた人は誰ですか? 

 

 僕が大学3年次のとき、1952年に東北大学で開催された東北心理学会大会で、東北大学の助教授(後に京都大学の教授)の正木正という先生がなんとロジャースの話をなさるのです。ロジャースの最初の本が出たのが1942年です。わが国では最初の紹介ではなかったかと思います。臨床系の学問というのは仲間内でやりました。そのほとんどは鑑別所や少年院に就職していきました。ロジャースが日本で有名になるのは1955年以降です。
 そのほか影響を受けたのは、我妻洋という先生。アメリカから戻られて最後は筑波大学で教鞭をとられた先生です。この先生が、家裁調査官の研修所でエリック・エリクソンについて教えてくれました。バークレーの発達心理研究所の所員をなさっていました。ダイナミックにものを見なければならないという精神分析的な視点など、臨床的に影響を受けました。

 

Q:先生はアメリカにて学ばれていますね。そのとき影響を受けた方や事柄について教えてください。

 

 家庭裁判所の調査官をしていたときに、アメリカに出張命令が出ました。非行少年の援助について新しいことを学びなさいという指令です。そしてニュージャージーの州立病院にてスーパーバイザーになってくれた先生がユング派だったのです。反応一つ一つについての「患者のメッセージ」を理解しなければならないという考えの方でした。
 ニュージャージーにいた一年間は有名な先生が研修をやってくれました。ピオトルスキーという先生。知覚分析的アプローチを強調された先生で、「知覚分析」という名著があります。この先生は、精神科に入院した数多くの患者についてロールシャッハを行い、それを全てコンピューターに入力することにより、「有意に危ない患者を見つける試み」のようなことを行っています。
 1964年春にセントラル・パークのプラザホテルで、アメリカ集団療法学会の年次大会がありました。そして衝撃的な発表が1つありました。MIT(multiple impact therapy with family)という、テキサス大学の思春期病棟のスタッフがやった家族療法グループの発表です。当時家族療法グループ(その頃はファミリーグループセラピーという風に言いました)はテキサス大学のグループが人気でした。彼らが気付いたのは、病院で集中的に寄り添うことの大切さです。子どもの気持ちによりそってあげる人がいると良くなる。良くなるから、退院となり家族に返します。すると間もなく再発し、再入院となる。そこで、どうも家族が怪しいぞ、と。そこで、退院が予想されると家族全員呼ぶというところを行ったのです。テキサス州ならではの環境ですが、病院に来るのに丸一日かかるため、大きな病院には家族が泊まれるホテルがあります。そこで、宿泊施設に家族も職員も全部集まり2日くらいセッションをやる。そして患者が家族の中に受け入れられたのを見極めてから、家族に返すとなんと再発しないことがわかったのです。それは衝撃でした。その頃個人の症状や問題でも、家族に原因があることがある、家族を変えなければという流れがありました。
 このテキサス大学の家族療法グループの試みと成果は、僕にとって衝撃でした。そして「ぜひ日本でもやらなければ」と思ったのです。昭和40年に帰ってきて家庭裁判所の仲間と実行に移しました。東京家裁で今もやっていますが、措置施設から出たものの何らかの事情ですぐ家族に戻せない子どもを、いったん地方に勤めさせて落ち着かせようという試みがあります。その施設にて、少年院の経験をしているケースを8例選びました。そして東京から家族を呼んで、丸一日家族面接と個別面接、それも面接の組み合わせは決めずに、問題がありそうなところを見つけたら柔軟に組み合わせを変えるという試みを行いました。これは一ヶ月おきの2日の試みで、相当な効果を上げました。われわれは意気揚々でして、やるぞ!と思っておりましたが、役所の問題で一般化が出来ませんでした。全てのケースでの実行が不可能であるため、平等の原則に反するということで。
 以前は、子どもが悪いか地域社会が悪いか、と言うだけだったように思うんですよ。社会の問題といって論点がすりかえられていた。しかし家族が変わらないと行政がいくらお金をかけてもだめなんですよ。そして結局は人なんですね。アメリカの少年裁判は、地元の弁護士の中から選挙で選ばれた判事が「こういうケースだ。やってくれるか」とその少年にあった臨床心理士を選ぶんです。そして、適任者を選ぶと目に見えて良くなるんですね。
 他に影響を受けた人物というと、35歳のときに聖路加看護大学の教員になり、週の半分は聖路加国際病院の神経科の外来で働かせてもらいましたが、そこの専任の先生が『甘えの構造』の土居健朗先生。また、カップルセラピーを一生懸命やっているアラン・ガーマンの「Handbook of family therapy」というガイドブックがありますが、臨床心理学も基盤は心理学という考え方に賛同しました。20年前長谷川啓三先生とアメリカの学会に一緒に行って、今ソリューション・フォーカスト・アプローチのスティーブン・ド・シェーザーにも会いました。ラバーテも背景はかっちりした心理学です。実験・調査研究。その姿勢にも賛同しています。

 

Q:岡堂先生から見た、日本での家族療法の展開点を教えてください。

 家族心理学会を作ったのが1984年。そしてアメリカで家族心理学会の成立があったのも同じ年です。
従来アメリカ人は個人主義が強いですから「家族なんて」というところがあったですね。今でもそういう傾向が強いですが。その中でも1960年代くらいから、家族を扱うと変化が早いということが注目されました。やはり、自己成長とか内面をというのをゴールにするとなかなか時間がかかるわりに効果が見えにくい。もともとは、アメリカの心理に来る人は中流の上から上流の長期のカウンセリングにお金を払える方々だったのです。転換点は、戦争中に心理的ケアをされた体験者や見ていた人が、心理療法を広めたことになりました。精神療法家のところに患者たちが並んだ。ニューヨークで有名な精神分析の先生の面接を受けるには2年待ったほどです。そして、ジュディ・ガーランドという歌手が7年も精神分析を受けたのによくならないというのが問題になりました。そして、教育テレビで運動や行動処方で改善する方法が紹介され、精神分析について長々と批判をしていた(笑)。その後家族療法が出てきて、内面に焦点を当てなくともハッピーに改善する事例もあることがわかりはじめ、それが1980年代に広がってきたのです。そのころ、健康保険会社が心理療法に保険を支払うようになり、本格的に広がりました。わが国でも1980年代になってアメリカで家族療法を学んだ人が帰国し、そろそろ学会を作ろうということになったのです。

 

Q:最近の社会問題で気になるテーマを教えてください。

 

 夫婦間殺人と親子間殺人が際立つようになったと思います。統計によると、どの国でも夫婦間・親子間殺人は殺人総数のほぼ25パーセント、どの時代でもあまりかわらないといわれていますが、なんというか殺し方が残酷になってきている気がするんですね。家族の凝集力が弱まっているように思うんですね。家族の崩壊が進んできていて、それに気づかない。戦後、人間中心主義というか自分中心主義が強くなってきたからではないかと思っています。自分がいるのは両親がいて祖父母がいてということ、いのちの連続性・永遠性ついては宗教が教えるものですが、日本ではそれが欠けているように思われます。

 

Q岡堂先生の著書の『あたたかい家族』の中で、これからの家族は家族療法や家族教育が必要だとおっしゃっていらっしゃいましたが、どういう家族教育を行ったらよいと思いますか?

 

 家族を作り上げ、良い家族にしていく責任があることをわかってもらいたい。「家族教育」という考え方は嫌われるのね(笑)。でもわかってもらいたい。また、ファミリーライフサイクルといいますが、子どもが大きくなるまでの間に必ず乗り越えるべき課題について、あらかじめ学ぶことがいいとおもいます。学んでいても避けられませんが、心構えはできる。
 また、20代以降になってどうにもならなくなってしまう若い人。これは若い人にどう対処するべきかを心理学者が間違って教えたからではないかと思っています。ドイツでは子どもに厳しくしつける文化があったのに、それが甘くなった。叱られなかった子どもは働かなくなる(笑)。働かなくてもなんとかなってしまう。ニートという言葉を作ったイギリスでさえ日本の現状ほどひどくないからですね。国際的にも日本のしつけは甘くなってしまった。

 

Q:オススメの本について教えてください。

 

『家族カウンセリング』 岡堂哲雄 金子書房

 

確かに、今日お話いただいたことが全部入った内容ですね。

 

また、『心理学ヒューマンサイエンス』金子書房 を参考にしてください。

 

Q:最後に家族心理学・家族療法をこれから学ぼうとしている学生へのメッセージをお願いします。

 

 家族心理学を学ぶと人間理解の視野が広がります。私が家族に熱中するようになったのは、非行少年を見ていく中で、個人だけを見ていたら途方もなく間違ってしまうということがわかったからです。とんでもない子だなと思っても、家族を見ると、ああそうか!とわかるようになる。世間的にはいい家族に見えてもですね、子どもにはそうではないかもしれない。人を見るときに家族心理学の視点を持っていると、より幅広く人間がわかっていけるのではないかと思います。

 

 

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