【家族心理学研究者の第一人者にインタビュー】

nakagamahiroko

中釜先生は2012年9月28日ご逝去されました。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

東京大学大学院教育学研究科 中釜洋子先生

(先生のご所属はインタビュー当時のものです。)

インタビュアー 池亀 真司

 


 

①先生の御領域/ご研究のテーマをわかりやすく教えてください。

個人療法と家族療法の統合ということをテーマに挙げています。詳しく言うと、個人心理療法だけでは出来ないことがとてもたくさんあるので、個人心理療法という面接形態に家族の視点を導入したり、家族の面接をいれたりします。すると、変なことがおきることもあるのですが(笑)、どのような効果が得られるか考えるというのが研究テーマです。

Q具体的には?

どうしても家族と一緒に面接をしたくない、という方もいるし、家族と一緒になら面接に来てもいいという方もいます。それぞれの方が出発点で選ぶ面接形態があると思うのですが、その人が乗れる形態から始める。そのうち家族と面接したくないという人が家族面接を引き受けてくれるように
なると大きな変化(展開)が起こりますし、その逆もあります。その時の「変化」が一番面白いな、と思うのです。人がどうして異なる面接枠組みを選べるようになるんだろう、選ぶことを可能にするものはなんだろう、それを援助する援助者の心得としては何が重要なのだろうということが一番の関心事です。

Qどのような研究?

面接場面の分析をしたいということ、出来ているところで言うと自分の担当した事例を検討し直すことです。思春期から青年期のIPがいる家族というのが、ちょうど家からの自立というテーマとかみ合い、二種類の面接が活用される方々だと思います。

②どのような問題意識から活動/研究をしていらっしゃるのですか。

家族療法をなさる方は皆そうだと思いますが、家族というものに対する関心が強かったんだと思いますね。この集団ってとんでもなくひどい集団だなと思ったり、ずいぶん力になってくれるなという体験が臨床家なら誰でもあると思いますが、どうせだったら役立ってくれる方向に働きかけれられれば、そのほうがいいに決まっています。それにはどうすればいいんだろうと考えたのが、家族療法の出発点です。家族という集団よりコミュニケーションの妙に関心がある方もいらっしゃると思いますが、私の場合は前者に関心があった。今になってコミュニケーションって面白いと思ったり、なかなか巧みだなと思って感心したりしています。

③先生の師は誰ですか。また影響を受けた人物を教えてください。

指導教官だったのが、佐治守夫先生、近藤邦夫先生、そのお二方に会った順番がよかった。一番最初に佐治先生に教わった時には、人生は一人で生きるものなんだなと思いましたし、次、近藤先生に教わったときにシステムへの関心が初めて芽生えたんですね。人と人とのつながりって面白いなと思って。不肖の弟子だったかもしれませんが、スーパーヴィジョンをしていただいた村瀬嘉代子先生。嘉代子先生から受けた影響はとても大きいです、家族に関心を向けるという意味で。その後、家族療法を本格的に勉強してみようと思うようになりました。

Q家族療法は?

ボストンのケンブリッジホスピタルの中にある家族と夫婦のための研究所で学んだのが本格的に家族療法に取り組んだ最初です。ディレクターのヘンリー・グルンバウム(grunebaum)氏は発想が色々豊かな方で、 その人の奥さんがジュディス グルンバウム、ナージのコワーカーだった方です。この二人を中心とするグループで統合的アプローチを学んだのが最初ですね。ナージの文脈療法に一番惹かれました。
多方面への肩入れというスタンスと、随分慎重に試行錯誤を重ねて個人療法から家族の面接へ移っていった人で、そういうところが私には合っていたのだと思います。

Q平木先生もナージを師とされていますね。

とても近いと思います。この10年ほど、平木先生の研究所でも活動をしていますので、平木先生の影響ももちろん強く受けています。

④さしつかえなければこの領域に興味をもたれたきっかけを教えてください。

臨床活動の最初から家族への視点を持つこと、と教わったと思っています。家族の力を利用するという意味では家族療法のトレーニングを経た後のほうがずっと積極的になっていますが。最初からその人が生きる現実をしっかり見よと言われ、そのための労力を惜しむなといわれた気がする。それが当然として心理療法のトレーニングを受けてきました。

Q家族ライフサイクル論というのが気になったのでそれについて話をいただきたい。家族の生涯発達的な観点からエリクソンと対比する形で述べられていることが新鮮でした。

「関係性の発達」というのに関心があります。人がどのような人間関係に開かれてゆくか。子どもの誕生時からどのような家族を作り上げていくかというのは多世代的な関心です。社会心理学的なテーマになったり発達心理学的なテーマになったりなど、広がっていくものでもありますが。エリクソンも関係性を重要視している人ですが、一人で生きて行けるようになるのが発達ではなく、人と手を繋ぎながら自分を見失わないようになることが発達という立場がいっそう明確なのが家族発達論だとおもいます。マク・ゴールどリック(Monica McGoldrick)という東海岸出身の多世代派の方ですが、青年期は、自分の声にも他の人の声にも耳を傾けることができるようになる時期といっています。ナラティブの視点にもつながることですね。

Q関係性で発達を捉えるというのが家族療法的な見方で説明できているという気がします。わかりやすいなというのが第一印象です。しかもエリクソンの発達危機と対比させて書いているのがわかりやすい。

ナージはファミリーセラピーと呼ばずにリレーショナルセラピーというんですね。だから家族療法といわずに関係療法と言ったほうがよかったんじゃないか。私もそうだなと思っています。家族がまとまって面接に来なければならないのではなくて、人と人のつながり部分でこれまでの心理療法より優れた仕事ができるアプローチ。

⑤最近の社会問題で気になるテーマを教えてください。

みなさんおっしゃることでしょうが、本当に大変な世の中になってきましたね。私がアメリカに行ったのが15年ほど前でした。そのとき自分を守るのは自分しかいない、いろんな危険が溢れている環境だなと思った。日本は無防備で安全に暮らせると思っていたのですが、わずか15年間でその信頼が無くなったというのが気になるところです。ちょうど一年前に我が家に空き巣が入りましたが、周りにそういう経験をした人がある一定の数以上いる社会になってしまった。子育てをしている人もいろんなニュースにさらされ、私の子どもの時代のようにあけっぱなしの家では絶対に暮らせなくなったことが気になります。

⑥オススメの本を教えてください。

滝川一廣さん 『新しい思春期像と精神療法』

Qご自分のご著書の中で。

中釜洋子 垣内出版 『いま家族援助が求められるとき』

⑦家族心理学・家族療法を学ぼうとしている学生や関心を持たれている方に一言お願いします。

家族心理学や家族療法の授業をすると、とても強い関心を持ってくれる方が言う感想があるんですが。近くにいる人を大事にしたいと思えてきて、これって小市民的発想ですが悪くないですよねっておっしゃるんですよね。そんな気持ちを切り捨てないで行こうと思いますって、と学生さんたちがいうのを聞くのがすごく好きです。若い方でもそういうことが多い。という意味で、家族療法というのは比較的若い方にも関心を持ってもらえる。実践はなかなか難しくもありますが。

Q家族療法のよさは?

環境が個人に影響を与えているという考え方が強い家族療法は、ますます発展していくだろうと思います。現代の時代背景とマッチしているという意味で。少々悲しい発見でもありますが、個人の力はそう大きくないこと、周りの力が大事だということ、に私たちははっきりと気づいてきていますね。例えば認知行動療法も時代にマッチした心理療法ですが、それだけでは、個人内の営みに終始して殺伐としてしまいますね。だから家族療法をセットにするとよりいいと思いますね。

Q家族療法のよさって、終結時にはクライエントの周囲の人間関係の絆を太くしているということですね。カウンセラーが必要なくなっている、というような。

本当に。セラピストである自分が消えていけるというのが醍醐味ですよね 個人療法の場合は、自分に色々な感情が集約されてくるおもしろさですが、家族療法の面白さって黒子になっていけるところにあると思います。

大学院紹介

学部時代は広く関心を持ってくれるといいですね。物事をすぐに単純視しない人というのが面白いと思っています。1つの考えにすぐまとめてしまう人というのは家族療法にあまりあわないですね。幅広い発想を持ってくれるほうがいい。理想をいえば自分の意見をしっかり持っていて。なおかつ関心が広い人。それならベストですが。自分の中でやりたいことがたくさん出てくる、やる気のある方が集まってくれるといいですね。

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