【若手家族心理学研究/家族療法家に聞きました】
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立正大学 社会福祉学部
村尾泰弘 先生

インタビュアー
谷田部 正美
赤堀 正美

先生のご領域・ご研究のテーマを教えてください。

私の基本的なテーマは一応、家族なんですけど、特に非行問題を専門領域にしています。非行、犯罪、さらに今は犯罪被害者支援などもしています。また、家族への支援も大きなテーマです。

谷:先生は、大和市の青少年相談室でも活動されていますが、やはり成人の方もいらっしゃるんですか?
えーとね、青少年相談室は一応20代の人までは、青少年として認めてるみたいですね。

青少年ご本人からじゃなく、親御さんからの相談もあるんですか?

親からの相談が多いですね。非行の相談も受けますが、そんなに多いわけではないです。不登校がらみの相談が多いんじゃないでしょうかね。

どのような問題意識から活動・研究をしていらっしゃるんですか?

もともと私は家庭裁判所におりましたので、家族を扱っておりました。家庭裁判所調査官という仕事をしていました。
そういうところで仕事をしてきましたので、非行の子供に対する、立ち直りをどう考えたらいいか、ということが私の一つの大きなテーマになっています。

18年間家裁にいらしたと聞きました。

17年間家裁にいました。大阪家庭裁判所を振り出しにして、福井、横浜にもいました。それから、今の大学に転職しました。

家庭裁判所は国の施設だから転勤は結構あるわけですね。

家裁調査官は広域の転勤がありましたね。

それから大学で教えるというお仕事にしたわけですね。大学にうつるきっかけというのは?

そうですね、特にきっかけというのはないんですけど、たまたまご縁があってということでしょうか。家裁調査官というのは国家公務員で、活動にいろんな制約もありました。大学の教員になって、フリーな立場で活動をするというのは大きな魅力があって、転職をしたというところです。

やはり公務員だったら、家裁の中の活動に限られるわけですね。

そうですね。私としてはまだ若かったのでいろんな可能性に挑戦したいという気持ちがありましたからね。だから大学に移ったという面もあります。

大学の教員をしながらこういうところでの活動もされているのですね。

そうですね、臨床活動は継続してきているということですね。大学の教員の仕事プラス臨床活動です。まあここではいろんなケースのスーパービジョンもしています。もちろん自分でケースも持っています。
大和市青少年相談室以外では、児童養護施設の職員のスーパーバイザーの仕事もしています。児童養護施設というのは今、虐待を受けた子供が結構多いので、そういう意味ではそういう被虐待児の対応というのも大切な仕事になっています。
また、NPO法人の「神奈川被害者支援センター」の副理事長をしています。犯罪被害者支援も現在では自分の中の大切な仕事になっています。

NPO法人のカウンセラーさんのスーパービジョンをしていらっしゃるのですか?

そうですね。それに実際に被害者の方の支援活動をしています。

法的なこととか?

というよりも臨床的な仕事です。

先生の師はどなたですか?

僕の学生時代の先生は、小川捷之先生です。古い本なんかに出てくると思います。

ずいぶんご高齢でいらっしゃるんですね。

いや、もうなくなっています。わりと若くして50代で亡くなった人ですね。それとあと、山中康裕先生。この先生に僕は、グループスーパービジョンを10年以上受けてきたんです。両方ともユング系の先生です。また、その一方でね。家族療法の先生方とのお付き合いもあるんです。

大学では、精神分析、ユング心理学を学ばれたのですね。

そうです。小川先生は精神分析とユング心理学と両方をやっておられた先生なので、精神分析的な眼差しと、ユング心理学的な眼差しの、両方を学んだかたちになりますね。

大学でそういうふうに勉強されて裁判所のほうに行かれたわけですが、やっぱりお仕事で活動されている中で家族療法的なかかわりもされてきたのでしょうか?

家族療法的なかかわりもしてきました。いろんな問題行動をその家族のシステム上の問題ととらえて、そのシステムそのものを変えていこうという姿勢でやっています。家庭裁判所調査官研修所に、鈴木浩二先生や平木典子先生らが来ておられて、その授業をきっかけに、研修所で家族療法の手ほどきを受けました。だから私が家族療法に関心を持つようになったのは、家庭裁判所に入ってからですね。そういう先生方の指導を受けて、家族療法の勉強をした、ですから私の中には、精神分析とユング心理学と家族療法という柱があるわけです。
だから、家族療法的な発想でものを考えたり、その一方でユング派的な考え方をしたり、あるいは精神分析的な考え方をします。小川捷之先生が精神分析とユング派の二つの眼差しを持っておられたとしたならば、私は精神分析とユング派と家族療法という三つの眼差しで活動しているということですね。

そうすると、家庭裁判所で仕事をしながらもそういう研修をコンスタントにされていたわけですね。

村尾先生:そうです。山中先生のグループスーパーヴィジョンなどは、自分で自発的にそういう指導を仰いでいました。

赤:先生の活動の中で犯罪被害にあわれた方のケアだったり、精神分析やユング派だったり、個人を対象としたアプローチがすごく大事になってくると思いますし、システムとして家族をとらえていくというかかわりもされているんですね。だから、活動にあったアプローチを柱とされているんだなと今お話しをうかがって印象を持ちました。

村尾:被害者の支援でも、家族療法的な支援ってね、発想として大事なんですよね。
トラウマ体験をすると、いろいろな症状が出るんですが、PTSDってそういうトラウマの後遺症みたいなものなんです。犯罪被害にあって、すごく怖い体験をするとするじゃないですか、それを聞く家族って2次的なトラウマ体験をするわけですよ。そうすると家族と本人の両方がトラウマを抱えていることになっちゃうので、家族全体でね、不安感を高めあっちゃって、症状の回復を拒むようなそういう家族システムを作り上げちゃうんですよね。
そうするとその家族システムを変えることによって、PTSDもよくなっていくだろうというような発想ができます。それはひとつの家族療法的なPTSDの治療のあり方だと思うんですよ。だから、精神分析やユング派の発想で被害者を考えていることも大切だと思うんですが、こういう家族療法の発想も必要だと思うんです。
PTSDと家族療法っていうのは、一見関わりが薄いように見えるんですが、実はこの考え方は大事だと思うんです。本人だけでなく家族もみんなダメージを受けますから、家族を支えたり、そしてその支えられた家族が被害者を支えたり、そういう被害者を支える家族システム、被害者をより良い状態に回復を促進させていくような家族システムを構築していくという発想は大切です。まさにPTSDの家族療法ですよね。

赤堀:個人と言うよりも・・・


村尾:そうですね、家族を支えて、被害者をより良い状態に導いていくような家族を作り出していくということが大事ですよね。当然、犯罪、非行臨床もそうですよね、家族を変えないとなかなか非行少年が立ち直りができないというのは、これはもう常識的に考えてもお分かりいただけると思うんですけど、家族そのものを変えていく、それと同時に個人の心の中の問題を掘り下げて考えていくというのも大事です。私の場合は、私の非行臨床の中心的な考え方っていうのがあって。それはね、非行少年は犯罪を犯した加害者なんだけども、心の中は非常に被害者意識が強いという、「加害者でありながら被害者意識が強い」という、ある種の矛盾を抱えた逆説的な存在として非行少年をとらえていくわけです。私の場合は、臨床心理学なんですけれども、多少、哲学的な思考を取り入れています。

谷:そうすると精神分析的、ユング心理学的、家族療法的な3本柱があって、実際の事例に対して、それをその3本柱で考えていって支援をするという方法なんですね。


村尾:その3本柱で物事を見ながら、それをある種の哲学的な思索を積み重ねながら、それから導かれるアプローチ法をケースに適用して、その考えた命題の有効性とか妥当性とかを確かめるんです。
ちょっと哲学的な思索を入れながら臨床心理学的な対応をしています。

谷:さしつかえなければこの領域に興味を持たれたきっかけを教えてください。

村尾:そうですね、僕は大学院に進んだんですが、そのときたまたまね、教護院(現在の児童自立支援施設)で心理の仕事を、非常勤でやらないかって誘われたんです。そういう経緯で、心理確定員の仕事をはじめたんですよ。
教護院って非行のある子ども達が入っている施設だったんですが、そこではじめて非行のある子ども、しかも家族的に恵まれない子供たちにかかわり始めたんです。それがきっかけですね。
そして少年非行に興味を持って、それがもとで家庭裁判所調査官になったというのがそもそものきっかけなんです。

谷:そういった活動の中で、社会問題で気になるテーマがありましたら教えてください。

村尾:そうですね、やっぱり一つは孤立っていうことでしょうかね。家族がバラバラになったり、孤立した人たちが増えてきてる、それはすごく気になりますね。
人と人の結びつき、特に家族の結びつきが薄くなってきていることが、今、とても気になってることです。

谷:臨床活動の中でもそこらへんも考えていらっしゃる?

村尾:そうですね、ひきこもりの問題もあるじゃないですか。ひきこもりというのは、ひきこもっている人と家族の関係というのは決して良くはないですからね。
ひきこもっている人は、結局、家の中で孤立してるわけですよね、社会からも孤立し、家族の中でも孤立しているわけですよね。そして、ひきこもっている人は家族の中に居場所がない。家の中でひきこもっているのに家族の中に居場所がない人たちなんです。
パラドックスですよね。ひきこもるのは家の中に居場所がないからというパラドックス。これは今の社会の流れとほとんどオーバーラップしています。

赤:私とかはアラフォー世代なんですけど、私たちが中学生のころは校内暴力がひどくて、それで仲間内の結束はわりと固くて、家にいられなくて外にでてくるんだけれども、それは友達との結びつきというかつながりというかそういうものを大事にしたくて、そういうのを外に求めていた。今の子たちはわりと貝のように閉じこもってしまう。

村尾:そういうところも、あるかもしれないですね。昔の校内暴力というのは昭和56年前後がピークだったと思うんですが、あの頃の校内暴力というのは、ある種、徒党を組んで反抗をしたんですよ。だけど今の校内暴力というのは単発型でキレるっていいますね。だから同じ暴力であっても時代とともに違いますよね。やっぱり時代を反映しているってことでしょう。
今は孤立化の問題が全面に出てますね、いろんなところでね。

おススメの本を教えてください。

村尾:オススメの本ですかー…心理学以外でも何でもいいですか?
谷:何でもいいです。他の先生方もいろいろとありましたので。
村尾:僕ねー、わりと好きなのがミヒャエル・エンデの「モモ」っていうのがいいですね。あれは多くの人に読んでもらいたいです。子供から大人までね、子どもも子どもなりに楽しめるし、大人は大人なりに深い味わいがあります。
谷:ミヤエル・エンデって「はてしない物語」もそうなんですけど、人間の行動って無意識的なものが影響してくるみたいな…「はてしない物語」はある意味人間の集合的無意識みたいな世界にはいりこんじゃった物語なのかな、と思います。
村尾:ちょっとユング的な見方をしてそういう物語を読むと、また別の味わいがあるかもしれないですね。

最後に心理学を学ぶ学生に一言お願いします。

村尾:やっぱり家族を大事にして欲しいな~ということですね。あの、それは心理療法の対象としての家族…そういうことも大事なんですけど、もっと広い意味で家族を大事にしていく社会とか、家族を大事にしていく風潮であるとか、そういうことをね、大切にしてほしいと思います。家族に対する素朴な愛着、慈しみみたいなものも大事にしていってほしいと僕は思いますね。
谷:大河原先生の本にあったのですが、すごく子どもを愛してるっていう親が増えていて、かわいいかわいい、それは子どもがかわいいのは自分たちにとってのメリットであって
村尾:うんうん。
谷:同じ家族でも相手の気持ちを大事にする、機嫌が悪いときは、あー機嫌が悪いんだなと受け止めてあげる、そういうのが大事なんだなと感じたのですが…
村尾:自分たちがよって立つところっていうのが、家族だと思うんですよね、いろんなことをやっていくエネルギーの沸き起こる源泉です。やっぱり家族の中でエネルギーを蓄積し、いろんな心の傷を癒していく、そして明日また頑張って生きようという、我々はそういう生活をしているんだと思います。
そういう自分たちを元気にしてくれる家族を大事にしていきたいというか、そういう家族に対する慈しみを感じてほしいなと思います。元気の源は家族じゃないですかね。
赤:先生のおっしゃる家族を大事にというのは、家族を大事にするんだけど自分も大事にっていう、自分の足場だよということなんですね。
村尾:そういうことですね。逆にいえば家族に恵まれない人たちの苦しみみたいなものも、臨床家としてしっかり理解するということも大事なんじゃないでしょうか。こうやって家族によって元気をもらっている人たちが多い中にあって、家族に恵まれない人たちがどれほどの辛さや苦悩を抱えているかっていうところも理解する必要があるんじゃないでしょうか。
家族に恵まれない人たちが生きていくときって、どんな支えが欲しいかなということも、その時に感じることってありますよね。
赤:個人的に、最後にちょこっと伺いたいのですが。
こういう仕事をしていると憤りもあると思うんですけど、そういうときに先生を支えるパワーというかお気持ちを支えられるもの…私もちょっとボランティアで電話相談をしているんですが、もう本当にやってられないなーと思うような痛ましい話とかあると思うんですが?
村尾:なんでしょうねえ、そういう怒りは直接その個別の対象に向けてしまっては良い結果にはなりません。私たち臨床家は個人に怒りを向けるのではなくて、家族療法でいうポジティブ・リフレーミングということですよね。怒りを逆手にとって、その人が良好な循環を生み出すようなシステムを作っていく。そういう動きが必要じゃないでしょうか。
赤:ありがとうございました。スーパーバイザーみたいで(笑)

 

 

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