【家族心理学研究者の第一人者にインタビュー】

 

 
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ソリューションワークス 

磯貝 希久子先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)

 

インタビューアー  駒沢女子大学大学院  下川 恵

 

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①先生の御領域/ご研究のテーマをわかりやすく教えてください。

  開業機関であるソリューションワークスにおけるカウンセリングと,トレーニングが私の仕事の大きな2本柱です。その他にも,専門職大学院の非常勤講師や学生相談,企業内カウンセラーやクリニック等にも行っていますが,どこの職場でもソリューション・フォーカスト・セラピーを用いて面接を行っています。どういう職場環境でも,そしてクライエントがお一人でも夫婦や家族でも,グループであったとしても,さらに病態水準と言われるものに関わりなく何とか私がやれているのは,SFTのおかげだと思います。そこがソリューションと出会えて一番幸運だったと思うことです。実際,開業の心理士というのは,幅広い仕事に対応できることが求められるのではないかと思います。クライエントが山のように来談されるという所だったら別でしょうが。私は本当に何でも屋です。 


②どのような問題意識から活動/研究をしていらっしゃるのですか。

  問題意識というわけではないのですが,常にプロフェッショナルでいたいと思いますし,私にとっては自分が面接という仕事のプロとして在るためにSFTが一番フィットしたので,いかにこのSFTをシンプルに洗練させて極めていけるかということは意識しています。これは別にSFTに自分が縛られているわけではなく,私にとってはプロとしての自分を活かすのに,たまたまこのアプローチが一番合っていたからということです。ですから現時点では,自分の腕を磨くということがSFTの探求にも繋がっていると思っています。SFTでは,いかにクライエントの視点からすべての物事や解決を見るかということが求められるので,菅野泰蔵先生(東京カウンセリングセンター)の言葉をお借りすれば,「ロールテイキング」(私には,「受容」や「共感」という言葉よりも,この言葉の方がピッタリきましたので,使わせて頂きます)して,協働しながら解決を構築していくというのには,終わりなき修行が必要だなと感じています。 


③先生の師は誰ですか。また、影響を受けた人物を教えてください。

  もちろんインスー・キム・バーグ先生とスティーブ・ディ・シェイザー先生です。お二人はソリューション・フォーカスト・セラピーを創った方ですし,まったくタイプの違う方たちですので,それぞれから得られたことはとても幅広く奥深いものでした。スティーブ先生はご存知のように,シンプルに物事を記述する天才でしたし,インスー先生の面接や日頃のお人柄も,とても暖かく細かい気配りをなさる方でしたから,その両方を少しずつでも取り入れていけるようにとやってきました。理論を難しい言葉や,ダラダラと説明することは凡人にもできることですが,スティーブ先生のようにシンプルに最小限の言葉でというのは,本当に頭のいい人じゃないとできないことだなとお亡くなりになった今さらにつくづく思います。また,自分で言うのも何ですが,私は幼い頃から「よく気がきく子」(名前の希久子とかけてだったようです(笑))と回りの人たちから言われてきたのですが,これまでインスー先生ほど色々なところに気がついて心配りをする方は見たことがありません。SFTはアメリカで生まれたアプローチですが,そういった姿勢が日本人にも合ったのではないかなと思います。目標として,常にお二人の個性の良い部分を意識してやっていくことは,これからも続けていきたいと思っています。英語話せない私でも,今は心の中だとインスー先生とも言語の壁なくお話しができるしですね。 
  国内では,山上敏子先生からも公私ともに多くのことを学ばせて頂いています。臨床に関しては厳しいですが,そういった治療に対する真摯な姿勢はもちろんのこと,私的な部分で山上先生のとてもチャーミングで可愛らしい(大先生に,失礼をお許し下さい!)所は,モデルにさせて頂いてぜひ取り入れたいと思っている尊敬する先生です。 


④さしつかえなければこの領域に興味をもたれたきっかけを教えてください。

  もともと,人間に興味があって大学で心理学科に入学したのですが,入ってみたら中身はほとんど理系という感じで,実験はまだ面白かったのですが,授業の中でかなり重きを置かれていた統計法(当時は今のようにPCが普及しているような時代ではなかったので,大型コンピューターのプログラミングとかわけ分からない授業だったようなかすかな記憶があります)でノックアウトされ,「こんなはずじゃなかった」とすっかり勉強に対する意欲を失い,大学生活のほとんどをクラブ活動に注いでいました。ゼミは,一応産業心理を専攻して,卒業後には商社で働きたいなと思っていました。ところが両親の移住に伴い,それまでずっと過ごしていた東京を離れて福岡に転居することになり,友人も一人もいない地にやってきたわけです。でも,この福岡に来たことが臨床心理を勉強することになった大きな転機だったと思います。臨床心理学は西高東低と言われますが,こちらに来て,九州大学で聴講生として学び始めました。その頃はおおらかで,当時九大にいらした前田重治先生と村山正治先生が,心理教育相談室に所属することや,先生方の学部の授業も大学院の授業も受講を許可して下さって(もぐりですけど,もう時効ですよね),そのおかげで臨床心理の基礎を学ぶことができました。お二人の先生の寛大さがなければ,今この仕事をしている私はいませんでしたし,先生方の授業を受けられたことは大きな財産になっています。また,ちょうどその頃に亀口憲治先生が内地留学で九大に戻っていらしていて,それが家族療法を知るきっかけとなり,本当に幸運でした。今振り返ってみても,なんと自分が恵まれていたのかと感謝,感謝です。
  でも最初は,仕事としてやっていこうという気持ちはなかったんですよ。人間について,自分自身について知りたいと思っていただけで,仕事としてするかどうかは別問題だと思っていたので。仕事としてするのにはもちろん責任がともなうし,自分が仕事として臨床をする資格があるのだろうかというのは,働き始めてからもずっと自問していましたね。病院で常勤で働いている時にも,毎日,新聞の求人欄でまったく違う仕事もチェックしてましたから。最近の人たちは,最初から臨床心理士になると決めて大学・大学院に入学してきますが、そうやって目標を定めているのはすごいなとも思うし,でも臨床心理士という資格を取ることイコールこの仕事に向いているということではないんじゃないかなとも思います。まぁ私の場合,臨床心理を大学卒業後に改めて学ぶことになったことや,その時の先生方との出会いもそうですが,この仕事につくことを目指して進み始めたというよりも,なんか道がすべてこちらに進むようになっていたというか,青少年相談センターや精神科病院で働くことになり,そのうちはずみで開業することになりと,運命の流れにまかせてきたという感じなんです。でも,もちろん先ほど申し上げたように,「プロであること」ということは私にとって大きなアイデンティティですので,片足だけ突っ込んでやってるというつもりは決してなく,その時々を一生懸命にやってきましたし,何よりもこの仕事,セラピーが好きなんですね。だから今は,天職というとおこがましいので,きっと神様から私に与えられた人生のタスクとしてのお仕事なんだろうと思っています。 


⑤最近の社会問題で気になるテーマを教えてください。

  自殺者が増えているので,そのことですね。最近の社会問題でも多いですが、私は、小・中学から高校生ぐらいの子どもたちとのセラピーに一番関心があります。 

下川:少し前ですが、いじめで自殺が多かった時期がありましたね? 

  そうですね。もっと教育現場にソリューションフォーカスのやり方が入っていけばいいなと思います。クラス運営とかに使えればいいなと。 

下川:それは専門家が増えればいいなということですか? 

  専門家じゃなくてもいいと思うんですよ。教師がカウンセラーとしてやるわけではないと思うので。でも、親と同じように一日のうちで関わる時間がとても長いわけですから,先生たち自身が、もっとソリューション的な関わりを知って取り入れて頂けたらいいなと思います。スクールカウンセラーといっても、生徒全員に対して何かすることは難しいし、限界もあるからですね。クラスメート同志の関係、集団としてのクラスに先生が働きかけられるといいなと思います。 

下川:私自身が教育実習生として学校に入ったときに、あることに対して、「やりたくない」とクラス中がだんまりを決めたことがありました。困った挙句に、「どうやったらできるか?」と聞いたら、意外とすんなり解決策が出てきたりしたことがありました。 

  生徒たち自身が、どういうことだったらできるかということはとても大切だと思います。先生たちが「あーしたほうがいい」とか「こうしたほうがいい」と言うよりも、生徒自身がどれだったら取りかかれるかの方法を引き出すことは有効ですよね。また、同じことだとは思うのですが、「自分がやった」という自己効力感を引き出すためにも,子どもたちが「できることを探していく」ということが大切だと思います。 

下川:それは教育現場にとっては意外な考え方かもしれませんね。先生が「こうしなさい」とダイレクトではなく、寄り道をするような感じに見えますね。 

  結局「こうしなさい」と先生が言っても、生徒にとって自分のアイデアじゃなくて押し付けられたものだと次にいかないのよね。先生の意見を押し付けられたときは反抗したくなるしね(笑) 


⑥オススメの本を教えてください。

  「家族支援ハンドブック」,これはインスー先生の単著の本としては唯一の本なんですね。あと、これは専門書ではないんですが,「禅へのいざない」という本があって、もう廃盤になっているんですけど、それがすごく私にとってよかったです。禅の入門書のようなもので、アメリカに禅を広めた日本人の講話集が英語で書かれて日本に逆輸入されたという本で、すごく分かりやすい。 

下川:禅ってアメリカでわりと有名ですよね? 

  インスー先生の本にも禅の話とか出てきますよ。東洋思想を取り入れられていましたから,それで私も禅についてあれこれ本を読み始めました。


⑦家族心理学・家族療法を学ぼうとしている学生や関心を持たれている方に一言お願いします。

  家族心理学を学ぶ学生さんに対してという限定ではないんですが,いつも院生に最後の授業で言うことなのですが,大学院でいろんなアプローチを勉強すると思うんですけど、そういう幅広い知識ももちろん必要です。
  ただ,卒業後に現場に出て臨床を「する」ようになったら、どのアプローチでもいいから、まず1つのアプローチをしっかり勉強する。それは“ソリュ―ションフォーカストアプローチを”と言ってるわけではなく、どのアプローチでもいいのだけど、まず何か1つをしっかり勉強すると、臨床家としての土台となると思うんです。
  アプローチを選ぶときも、多分自分にまったく合わないアプローチは選ばないと思うのね。大学院で色々学んだものの中から取捨選択して、自分が“あぁこれが自分に合ってるな”というのを選んでいくと思うし、そこで自分の臨床ができてくる。初心者の頃から自己流で折衷していく人はやっぱり伸びないような気がする。また、上手くいかなかったときに、アプローチが悪いからだと思う人と自分のどこがまずかったのかなと考えて「次にどういう風にしたらいいのか」と思う人といると思うのね。うまくいってないことをクライエントのせいにしちゃうのは,最悪だけど。そのときにアプローチのせいだけしてると伸びないでしょう?アプローチはどんなものでも、今の時代に残ってるということはそれぞれに素晴らしさがあるからだと思うの。だから、“うまくいからないからアプローチが悪い”“アプローチがダメだから別の”って次々乗り換えていく人は、何も身につかないまま。だからといって、特定のアプローチだけに固執してやれってことじゃなくて,まず一つ何かをしっかり学んでから次のステップへという意味なんですけど。   それに、面接って何が起こるかわからないから、シチュエーションによって困ったときに、そこでみんなフリーズしちゃうのよね。どうしていいのかわかんなくなっちゃう。院生にロールプレイとかで面接をさせていると,クライエント役の人が問題を一方的に語っている時にはまだ良いんだけど,そこから先になると固まっちゃう((笑))そういう時、理論はよりどころで、何をすればいいのかとかが見えてくると思うのね。 

下川:そういうときに理論が役にたってくる。理論に沿っていけば、見えないものが見えてくるときがあるってことですか? 

今何をしたらいいのかとか、あそこで何が起こったかとか,理論(学び,身に付いているアプローチ)を持っていると、理論がセラピストの味方というか、力になってくれる。面接って、これはパーフェクトなんてことなかなかないですよね。次はもっとこうしなきゃとか、こういうふうにやればもっとよかったっていうのがあるでしょ。それに臨床には、どうしても持って生まれたセンスという部分もあると思うんですよ。そういうセンスに恵まれた人は、知識がなくても50位まですっと伸びていくかもしれない。でも、そうじゃない人もいるかもしれない。でも、一生懸命勉強すれば,センスがない人であっても50パーセントはちゃんとできるようになる、それが理論(アプローチ)。同じアプローチでやってても、10人なら10人が同じ臨床をするわけではないですし、そこには必ずその人なりの個性が出てくるものだと思うの。自分が精一杯やってもうまくいかないことはいくらでもあることだし,その時の自分ができることをコツコツやっていけば良いと思うんです。常に「クライエントを大事にして敬意を払う」ということを心に留めてクライエントと接していって頂きたいなと願っています。 

 

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