家族心理学研究者の第一人者にインタビュー    

?

in01 hiragi

 

 

 

 

東京福祉大学教授 平木典子先生
日本家族心理学会会長

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)


インタビューアー      生田倫子 


********************************************

研究テーマ

 

(生田)先生の御研究のテーマについて教えてください。

(平木)今は家族の関係の中での対人関係の作り方壊れ方等、変化を起こすというところを中心にやってきました。今後はそれを会社や友人関係にまでひろげていく必要があると思っています。関係というところで起こる問題を、システムという考え方において発展させていきたいと思っています。

(生田)平木先生は、アサーショントレーニングを発展させていらっしゃいますね。

(平木)アサーショントレーニングというのは、自己表現や家族の自己表現をきちんとすることにより違いを表現し、認識できるようにすることです。このアサーショントレーニングを用いて心理教育プログラムをつくることで、コミュニケーション、ひいては家族をかえていくことができるのです。この方法は、大きな意味での介入になります。そして、予防的にこのトレーニングのプログラムをつかっていくことも可能です。

(生田)具体的にはどのようなところで実践されていますか?

(平木)子育て支援においてです。このトレーニングを受ける前と後を調べていけば、効果がわかってくると思います。しかし、子育て支援も現在は暗中模索ですね。心理療法にいかないまでも、必要そうな人へのつなぎが心理教育プログラムになりそうです。

(生田)平木先生は、近年インテグレーション(統合)という概念を唱えていらっしゃいますね。

(平木)そうです。臨床理論・介入法の統合を考えています。これは、臨床のより効果的な実践はいかにあるべきかという問題意識から生まれています。例えば、心理療法の諸理論は何を追求しているか、それぞれの長所と短所は何か、問題や症状の変化には人間の認知・行動・感情の相互作用がどのように関わっているか、そのような視点から現存の介入法がどのように整理、統合されるかといったことです。

問題意識

(生田)どのような問題意識から活動していらっしゃいますか?

(平木)コラボレーション(協働)とはいかにあるべきかということです。例えば子育て支援において、セラピスト、お母さん、保育士が知っていることをコラボレーション(協働)して、それぞれの「専門性」を活用するのです。また、父を子育てにどのように巻き込むか、というようなプログラムなどにも、今やっている人も、これからやるひとも、専門家も、一緒にやっていくというプログラムをつくりたいと思っています。問題をかかえるちょっと前で予防的にできることはないか、というのが問題意識です。保育士、児童相談所、心理職など、専門家の連携の助けになるためにも、コラボレーションの精神をつたえられたらと思っています。

(生田)最初から家族に問題意識がおありだったのですか?

(平木)最初は青年期のカウンセリングが関心事だったのです。自立がテーマです。自立が困難な方へのカウンセリングをする中で、家族がきになってしょうがなくなりました。家族が自立を邪魔しているのではないか?と。つまり、家族を理解しないと、支援できないのではないかと思ったのです。そういう問題の70%から90%は関係性の問題があるのではないか、と考えています。青年期のクライアントを支援するために、家族との相互作用を理解し、家族に変化が起こる必要があります。そこから、心理教育プログラム、家族療法、とつながってきましたが、現在はカップルカウンセリングが一番面白いですね。

影響を受けた人物について

(生田)先生の師、また影響を受けた人物は誰ですか?

(平木)大学院の修士課程でミネソタ大学のウイリアムソンという師につきました。キャリアカウンセリングの先生です。青年期の支援からキャリアへと幅の広い先生でした。人間がどのようなキャリアを選ぶのか、どのようなキャリアをいきるのかということについて、キャリアというのは単なる職業という意味ではなく生き方であると考えていた先生でした。影響を受けたのは「みなさんがカウンセリングするときに、相手をその社会を適応させようとしてカウンセリングするな。社会が間違っているかもしれない。もしかしたらその人が革命家になるというキャリアだってあるということを考えて欲しい。」ということに影響を受けました。視野の広さを感じました。

(生田)家族支援において影響を受けたのは誰ですか?

(平木)あえていうならナージですね。多世代理論を提唱した人で、文脈療法の創始者です。「多方向に向けられた肩入れ」という考え方と方法を残しました。

(生田)どのようなところに魅力を感じたのですか?

(平木)どの人に対してもきちんとひいきをして公平であろうとする姿勢です。あなたは目の前に一人のクライアントとあっているがその人の背景には子どもとかこれから生まれてくる孫にも影響を与える。それを考えて仕事をしなさい、という人です。
 私は個人療法から家族療法に興味が移行したので、ナージが多世代を対象に家族療法をするのは画期的と思えたのです。その当時ミニューチンの方法論が、家族を理解する先鞭をつけていました。しかしナージを読むと、ああこのときすでにこんなことをいっていたんだと思うのです。


(生田)ナージのどのような言葉が一番印象に残ったのですか?

(平木)10年前に丸一日彼の研究所に会いに行きました。パーキンソン病で、身体も声も自由ではありませんでした。そのときの印象的な言葉は、「ギブ・アンド・テイク」ということを繰り返し言いながら、最後に「でも与えることができる人間は一番すばらしい」とおっしゃった言葉です。ああそういう心境でいらっしゃるのだなと思いました。それから私は「許す」ということはどういうことが考えるようになりました。

セラピーに対する姿勢

(生田)先生にお話を伺っていて、弱者にどう寄り添うかという問題意識があるのでは、と感じたのですが、いかがですか?

(平木)そうです。自分も含めて、だれもが弱いところを持って生きている。その弱いところがあらわになるような状況に誰もがなりうるのです。そのときに、味方になることができるということが大事だと思うのです。

(生田)日本的な「お互い様」という姿勢がおありになるのですね。

(平木)本当にそうです。弱い状況は誰もがなりうる、天下の回り物でしょう。たまたま助ける立場にいるときは「お互い様」という姿勢で助けたい。今は「家族療法家として助けることができますよ」ということを自分から発信して、その結果困った方が来てくださることも歓迎するという姿勢です。

(生田)それでは先生がアサーション(自己主張)トレーニングに関わられているのは、弱者の立場に立たされた人がどのように自分を出していくことができるか、という問題意識なのですね。

(平木)全くその通りです。DV等、家庭で理不尽な状況に置かれている女性の声をどのように取り戻すかという思いもあります。また、カウンセリングに興味を持ったのも、キャリア支援において、キャリアが選べないというのもそのひとつであるからです。

(生田)社会問題で気になることはありますか?

(平木)いろいろありますが、やはり「キレル子」「キレル状況」がこんなに広がっているのは気になります。心理学的に言うと「キレル」と言うのは怒りが蓄積されているということでしょう。その怒りが一定の人に向かうというのは、愛憎という言葉がありますが愛の反対が相手に向いているということですから、まだ救いがあるような気もするのです。しかし、その怒りが不特定多数に向かうというのは、やりきれない。また不特定多数に向かうような八つ当たり的な怒りが特定の人に向かってしまっていると思うときもあります。では、どうしてこのような状態になるのか、それは「世の中に存在していていい」という感覚がないからかもしれない、と思っています。承認してくれるひとがいないのではないか。やはり、家族や周囲の環境が「世の中に存在していていい」というメッセージを与えることができるということが必要です。

推薦図書

(生田)お勧めの本を教えてください。

(平木) 梨木香歩の「ペンキ屋」。絵本です。梨木さんというのは、人の心の微妙なところがわかるひとだなあと思うのです。この絵本は、追及し続けた色のペンキを塗るのに成功したペンキ屋さんの話です。結果よりもそのプロセスというのが、人との関わりの中で生まれて来ている、そこがすばらしいのです。

(生田)御著書の中からも一冊取り上げてください。

(平木)「新版 カウンセリングの話」平木典子 朝日選書。これは多くの人が読んでくださってよかったといってくださる本です。

 

家族心理学を学んでいる方への一言メッセージ

(平木)家族って一番身近な問題が出てくるところ。そういうことに関心があったり自分の家族について考えてみたい人にちょっと客観的に見れる視点を与えてくれます。人間関係の問題というのは避けて通ることはできません。人間を関係という視点から理解しようとおもったら家族心理学を学んでみてください。
 関係に巻き込まれた人は自分たちの関係をみることができません。また人間関係の部分で悩んで援助を受けたいと思っている人は、家族を援助するプロフェッショナルとしての家族療法や家族心理学の視点が助けになります。

 

*********************

2015年3月に再度インタビューする機会がありましたので、以下に加筆させていただきます。(インタビュアー:生田倫子、齋藤かほ)

 

これまで

―心理学との出会いを教えてください

私は最初、「人間はどこにいてもちゃんと仕事ができる人にならなければ」と思い、中学校の頃から英語が好きだったこともあって、英語の先生を目指していました。しかし、大学で心理学という学問を知り、そこで英語より心理学に興味を持つようになっていきました。大学卒業後は心理学を活かした仕事はなく、英語のジャーナル編集に携わっていました。そこでこの仕事を一生続けるかどうか迷っているときに大学に戻り、学生部事務の仕事をしていたころにカウンセリングの波がきて、本格的に勉強しようと思い、留学しました。

―留学後はどのようにして心理臨床の仕事に携わってきたのですか

アメリカから大学のポストがちょうど空いていたところに戻り、学生相談の立ち上げに関わりました。当時、学生運動がさかんだったころの全国大学学生部課長会議では、学生をどう育てるか、問題をもっている人をどう助けるか、大人になるまでに必要なことをどう補うか、というアメリカ(ウィリアムソン)のスタンスとは全く違い、過激な学生をどうつぶすかという話をしていました。「学生部とは学生をどう助けるかと考えるところではないのか」と発言したのですが、納得のいく説明をしてくれませんでした。会議が終わった後、立教の学生部長をはじめ、学生部の人々が声をかけてくれて、アメリカで学んだことを話し合いました。その3か月後、1967年に立教に学生相談のカウンセラーとして誘われ、臨床の道を歩むことになりました。キャリアカウンセリングに興味があったのですが、当時は大学生の不登校やボーダーラインの学生の対応に追われました。まだ、境界性人格障害という概念も治療法もない時代です。勉強会仲間や精神科医の先生方にずいぶん助けられました。カウンセリングのニーズが限りなくあることを実感し、ワークショップなどでカウンセリングを広めていかなければならないと思いました。そのニーズからいくつかの学会や勉強会などが創設されていきました。1979年には再びアメリカ西海岸で家族療法を学び、帰国後は臨床心理士の養成に携わっていきました。ただ自分自身の実践の場がなくなるのはまずいと思い、統合的心理療法研究所(以下IPI)を設立したんです。

―当時の日本は心理療法について教えてくれる人もいなければ、SVの制度もなかった。大変なケースをこれまでどう乗り越えてこられたのですか?

1970年代、新しい方法や考え方は心理臨床の世界にはあふれていて、それは大きな助けであり、魅力でした。その刺激の中でよく勉強しましたし、クライエントの支援に基本的に必要なことは何かをずっと考えました。大切なことは、どれくらい自分がフェアに支援できるかということでした。自分の方向に引っ張るのではなく、相手が行きたい方向、その人らしく生きることができる方向をどう探し出せるか、という意味です。カウンセリングとか、援助はやり取りの世界なのでお互いに影響しあうじゃないですか。そのやり取りがクライエントにとって役に立つことを常に思っていました。

 

セラピーについて

―家族心理学についてはいかがですか

学生相談で、学生の背後にある家族を知りたいと思ったこと、家族を知らないと学生の自立を助けることはできないと実感したことが、家族心理学に興味をもったきっかけです。また、境界性人格障害の学生と出会って、自分の訓練の未熟さを思い知り、再度訓練の機会を得たいと思い、家族療法やアサーションを学んだのです。

―家族心理学の中でも特に好きな考えなどがあれば教えてください

家族療法のいくつかの理論の中では、多世理論に惹かれ、構造理論は納得いく理論だと思いました。ナージ、ミユーチンなどですね。過去を扱うが、過去を原因にしないというところ、クライエントが感じたことは辛かったが、その時両親がどう思っていたかなども考え、未来につなげるというところに魅かれました。過去を探りながら、未来についないで、過去をいやしながら未来を拓くところが気に入りました。多方向への肩入れは、家族療法ならではの技法だと思いますね。1タイ1だけでなく、家族の中で誰にも肩入れすることが大きなダイナミクスを作ったり、矛盾が起きたりするのですが、そんな中で、人々がそれを乗り越えて支え合っていくプロセスが好きです。

―様々な学派がある中で共通した大切なことは何ですか?

心理臨床の魅力は、上司や機関のためではなく、クライエントのために働くことができることだと思います。自分を活かし自分を生きることができなかったクライエントが自分で動けるようになっていくプロセスの道連れになるということですね。やり取りの中でその人が意味を見いだすような言葉かけができて、動けるようになるところに立ちあえることが大切だと感じています。

―統合についてどうお考えですか

人々が生きている姿をありのままに見れば、個人も家族も支援の方向は変わらないし、互いが理解し合い、援け合える方向は統合になるんじゃないかと思います。理論や技法を競い合うのではなく、それぞれの理論・技法の意味を自分の中で統合し、クライエントや家族の役に立つことをするイメージがあります。援ける側の統合を考えれば協働になるのだと思う。理論や技法は同じことを違う言葉で言っていることも多く、オープンに学ぼうと思ったらつながり合い、刺激し合えることがたくさんあります。

―日本の臨床心理士養成についてはいかがですか

現在、心理療法の理論・技法は400から500あると言われていますが、アメリカやイギリスでは認知・人間性・精神分析・行動・家族の5つが主たる基礎理論として教えられます。日本は家族が抜け落ちていることがとても残念。システミックなものの見方がない基礎理論は心理療法の統合や俯瞰したものの見方につながらない。日本はベーシックなところで心理療法の世界を俯瞰できていない大学院の先生が、自分の好きなことだけを教えている。学生の立場に立つと、全貌を見る前にある方法論のみを押しつけられていることにもなる。特に、大学院の2年間では基礎となるような統合的な見方と基礎的な技法訓練が必要。大学院に入る前に方向が決まっている人は少ないし、道案内を公平にして、それから好きなことをやればいいと思っています。

―家族療法でも、それ以外でも今の関心はどんなことでしょうか

今の一番の関心は家族とキャリアを統合することです。生きる上で何が大切かという問いに、アメリカの人々は家族と答えますが、日本ではバランスが悪くて、仕事第一の男性が多く、家族への関わりを知らないし、できない。セラピーやカウンセリングの問題はこの2つの領域で起こっているのに、それをつなぐ心理療法をやっていたのだろうか。セラピストや支援者は、多様で多重なものごとを見る目を育て、支援を展開してほしいです。

 

back to 家族心理.com

 

 


今すぐクリック!

ナースのためのアサー...ナースのためのアサーション

平木 典子, 野末...

¥1,890

新版 カウンセリングの話新版 カウンセリングの話

平木 典子

¥1,260

カウンセラーのための...カウンセラーのためのアサーション

平木 典子, 土沼...

¥1,890
Copyright © 2017 家族心理.com. All Rights Reserved.
Joomla! is Free Software released under the GNU General Public License.