家族心理学研究者の第一人者にインタビュー

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国立精神・神経センター精神保健研究所客員研究員
「まめの木クリニック」ソーシャルワーカー 
藤井和子先生

(先生の御所属はインタビューがされた当時のものです。)
インタビュアー 武蔵野大学大学院 高橋 誠

 

 

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先生の御研究テーマについて教えて下さい。

 

 領域は児童福祉と児童の精神保健と家族援助ですね。研究テーマといわれると困ってしまうのですが、私は児童相談所で20年ケースワークをしていたので実践から学ぶことが基本と思っています。児童の発達保障と子どもの権利擁護が基本にあると思います。児童相談所ではじっくりやるというより応急措置的対応でした。
 国立精神保健研究所に移ってからの研究テーマは、虐待と家族支援、軽度発達障害などです。軽度発達障害はとても育てにくいので虐待のリスクが高いように思うんですね。だから、子供の発達と虐待との両方で家族をどう支援していけるかという視点で見ることが出来るのが良かったかな。と思っています。

Q藤井先生が行っているペアレントトレーニングはどのようにして出来たのでしょうか?

 

 国立精神保健研究所にいるとき、児童部で軽度発達障害(ADHD)を研究課題として取り上げることになりました。ADHDを持つご家族を臨床相談室で引き受けることになって、その中で親御さんたちが物凄く大変な思いをしているとよくわかりましてね、その家族にどのような援助があるのかということから始まりました。ADHDの親の援助はアメリカで長い間プログラムを組んでいることが分かり、そこで色々レクチャーを受けたり、実際にシンシア ウィッタムさんのセッションを見せていただいたりしました。児童部全員でそれを基に日本の家族に合うペアレントトレーニングに改良しました。

 

どのような問題意識から始められましたか?

 

 いわゆる子供の発達保障、権利擁護、子どもの最善の利益とは?というところは意識しなければいけないなと思っています。しかし児童相談所の中では子どもの人権や権利を最も擁護するべき親達も、親達の人権や権利を保障されていないんです。一人ひとりと向かい合っているから、その辺で本当に矛盾だらけの中で右往左往しているのが正直なところです。

 

Q親達の人権が守られていない?

 

 私は児童相談所が出発ですから、児童相談所で出会う人たちは本当に底辺の人たちが多いんです。そのような親達はいい加減や怠けているわけではないのに、「どうしてこんなに守られないんだ」と思います。下から上を見ると社会の矛盾が良く見えます。

 

Qそれはもう何年も経っても変わらない?

 

 変わらないと思いますね。例えば、少子化云々していますが、ちらっと考えてみても小児科医、産婦人科は少なくなり、救急はたらい回しにされたりが日常的にあります、どんどんひどくなっているとしか思えない。子どもや子育てをする親を取り巻く状況は。

Q親御さんの支援の状況を良くされるには?

 

 私は社会運動家ではないので大きな運動は出来ませんが、身近なところから自分の権利を主張して行こうよ。と後押しする事ですかね。夫婦関係や学校との関係であっても。

 

Q ペアレントトレーニングのプログラムなどはありますか?

 

 プログラムの基本は子どもをどうこうするのではないんです。軽度発達障害を持つお子さんは行動や認知、情報把握の仕方に特徴があるので「なんでうちの子はこうなの?」と親は混乱し、とても大変になることがあるんですね。子どもの特性を理解してその特性に合った対処をすることで、親はイライラせずにすんだりするんです。趣旨は家族の中のコミュニケーションを良くし、親が出来るだけ成功体験を積むようになるようにする事なので、子どものために親が変わりなさいというのではないんです。また、子どもを変えるものでもないんです。そこを私は大事にしたいと思っていますね。子どもをなんとかしようと思って必死になればなるほど自分の思い通りにならないものだから虐待にもなりかねないんです。悪循環に陥っている関係を具体的な方法で断つ、というものです。

 

Q 発達障害を持つお子さんの親御さんの成長はどのような中で生まれるのでしょうか?

 児童相談所で働いているときは、障害があるが故に離婚し、施設に子どもを預ける家庭を多く見ていました。障害を持つ子どもを持ったすばらしい家庭になっていく家族と壊れてしまう家族は何処が違うのか。測り知れない悲しみ、葛藤を経て、ありのままのその子を受け入れるというプロセスを家族が成し遂げるということでしょうか。本当に障害を持つ子の親御さんからは学ぶことが多くて私たちが提供できるものより、私たちが得る方が何倍もあると感じています。

 

社会問題ではどのような部分に憤りを感じていらっしゃいますか?

 憲法改正の問題ですね。だんだん、戦争しやすいようになっている気がしています。騙されない、ごまかされない、流されない、自分はそうありたいですね。今は前よりも巧妙になっている気がしますので用心しないとね。最大の虐待は戦争だと思うので・・。

 

先生の師や影響を受けた方はいらっしゃいますか?

 

 そういわれるとね。クライエントを含めて今まで出会った全ての人としか言いようが無いですね。それとこれから出会う全ての人かな。師って、私は師と思っていても、あなたみたいな人弟子と思っていないと言われているかもしれないし・・・(笑)。影響を受けたのは、中学、高校のときの国語の先生ですね。もう亡くなられましたけど、女性が働くとはどのようなことか学びました。それと、精神保健研究所の部長で、まめの木クリニック院長のでおられる上林靖子先生と夫からも影響を受けていますね。二人のおかげで自分がずいぶん自由になれたんじゃないかな。視野が広がったのもあるし。それと猫からかな・・・。

 

一番初めにこの領域に興味を持ったきっかけは?

 お金に関係ない仕事をしたいと思っていたのと、少年非行に興味がありました。また、自分が大人になりたくなかったんですね(笑)。子供でいたかったし、子供といたかったんですよ。また、私に子供がなつきやすいと言われたりして。だからあまり努力しないでも出来るかなと(笑)。ところが、子供と一緒にいると子供に恥ずかしくない大人にならなければと思いましたね。子供から「ケッ」って言われる大人にはなりたくないと。子供の眼差しと言うか嗅覚に耐えられる人間とはどのような人間かを考えているうちに子供から離れられなくなりましたね。今考えてみるとロジャーズがいっている、自己一致や受容、共感とかに行き着くのかなと思います。

先生の御著書を含めてオススメの本を教えてください。

 

 実習生などには小説を読むことを勧めます。小説をたくさん読むことが人を理解するのに役立つと思うんですね。小説家は人の洞察力とか、心の機微、表現力などがすごいんですよ。小説には様々な人物が登場します。生身の人間が経験できることはたかが知れているので大事だと思っているんですね。

 

Qお好きな小説は?

 

 先程話した、中学時代の国語の先生から若いうちに古典的な長編小説を読んでおきなさいと言われ、それなりに読んだと思うのですが。今は短編が割りと好きで向田邦子さん、山本周五郎さん、太宰治さんの本が好きですね。私が大事にしていて時々読み返す本に大村はまさんの「教えるということ」がありますね。この本は、子どもと共にいる専門家のありようを厳しい目で語りかけてくれます。後は絵本作家の五味太郎さんの絵本が面白い!!この人は大人も楽しめる絵本を描くんですね。私の思う子供観と似ていてすごく面白いです。また、五味さんの視点は家族療法のリフレームとかパラドキシカルな見方があるんです。

 

学生に一言お願いします。

 

 「幸せな家族は一様に幸せであり、不幸な家族はそれぞれに不幸である」というトルストイの言葉だったと思いますが、悩んでいる家族は本当にそれぞれだということを言いたいです。また、家族療法は色々な技法とか、有効なものがいっぱいあると思うんですけど、基本的にはあなたと私の関係で始まるわけですよね。色々な華々しい技法を持っていても、私とあなたとどう向かい合っているかによって変わります。だから徹底した、信頼、尊重、尊敬などが大切だと思います。技法もとても大切ですが、相手がやってみようと思うには、信頼関係がなければ受け入れてもらえないでしょう。家族全員に会うにしても家族のひとりひとりと、自分がどう信頼係を築けるかだと思います。

 

 

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